かっぱの書棚

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今夜F時、二人の君がいる駅へ。/吉月 生

 

今夜F時、二人の君がいる駅へ。 (メディアワークス文庫)

今夜F時、二人の君がいる駅へ。 (メディアワークス文庫)

  • 作者:吉月 生
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫
 

 お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

登場人物5人の関係性が愛しい!!

クリスマス間近のある夜。昴の乗った京浜東北線終電車の第2車両が、突如消え去った。気づいた昴がいた場所は、まだ開通してないはずの高輪ゲートウェイ駅―そこは5年後の未来だった。失われた時間に、最愛の彼女を亡くしていた昴。そして、様々な事情を抱える瞳、勇作、晟生、真太郎の乗客たち五人。変わり果てた未来に追いつけないでいた昴たちは、過去に戻れる可能性があることを知る。ただし、戻れるのは一人だけ―。

めちゃくちゃ良かった。

あらすじを読むだけだと過去に戻る片道切符を登場人物たちで奪い合うような物語を想像していたのだけど、本筋は生きることの意味を見詰め直して、どこかに置き忘れてしまった自分たちの人生を取り戻すのが主旨なんだろう。読後の余韻もあわせて最高だ。

 

物語は『ベテルギウス超新星爆発』の影響による事故で、電車の車両ごと5年後の世界に吹き飛ばされてしまった登場人物5人を追いかけたヒューマンドラマになっている。

 

この作品の面白いところは群像劇のように5人の登場人物の視点を切り替えながらストーリーが進行していくところだ。お話は勿論のこと、各登場人物の現実世界での背景からキャラクターまでが濃密に描かれていくことで物語の中盤以降の展開を力強く支える形になっている。

 

というのも、このお話の大切なところは誰が過去に戻るかという点じゃない。だからこそ、過去に戻るために五人が手を取り合って、知恵を共有して過去に戻るために、チームのような体制を組むことになるのだが、その雰囲気がとても良い。

 

最初こそ未来に吹き飛ばされた恨み辛みであったり、5年後の世界でうまく適応できない自分といったネガティブな側面が描かれるのだけど、同じ仲間である5人が同じ目標に向かって動き出すのは当初想像していた物語からは大きく離れていてそのギャップで胸が熱くなったりもした。

 

彼女と喧嘩別れをしてしまった佐野峯昴。

小さな金属加工工場の社長を務めていた牧勇作。

アパレル販売店に勤務していた島倉瞳。

反社会勢力からお金を徴収するタタキで生計を立てる穂川慎太郎

物理学に精通した神坂昂成。

 

5年で変わった過去と現在。