かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない/鴨志田 一

 

青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない (電撃文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

大学生になっても変わらない関係性が尊い!!

忘れられない高校生活も終わり、咲太たちは大学生に。新しくも穏やかな日々を過ごしていた、そんな秋口のある日―。「さっきの本当に卯月だった?」アイドルグループ『スイートバレット』のリーダー・卯月の様子がなんだかおかしい。いつも天然なあの卯月が、周りの空気を読んでいる…?違和感を覚える咲太をよそに、他の学生たちは誰も彼女の変化に気づかない。これは未知なる思春期症候群との遭遇か、それとも―?新しい場所、新しい人との出会いの中で、咲太たちの思春期はまだ終わらない。新たな物語の始まりを告げる、待望のシリーズ第10弾。

青ブタ大学生編の開幕。

楽しみにしていた青ブタの物語を味わうことができて良かった。今回のお話の主役はなんと言ってもスイートバレットのリーダーである卯月に他ならないのだけど、それ以上に大学に進学してもこれまでの関係性を蔑ろにせずに物語が描かれたことかなと思います。

 

麻衣さんとの仲は相変わらず順調だし、のどかとも同じ学び舎に通っていて、朋絵との接点も切れていない。消防士の道を志した国見とも連絡は取っているようだし、新しい生活に身を置きながらもこれまでの出会いを大事にしている咲太の心根が見て取れるようで嬉しいなあ、と。

 

また、個人的にポイントが高かったのは理央とバイト先が同じということだったりします。高校生時代の二人を頭に浮かべて、その延長線上にいる二人はどのような関係に落ち着いているだろうと考えたときに、とてもしっくりきたんですよね。

 

さて、本題の卯月のほうの物語も良かったです。シリーズ一巻から言及のあった”空気”を題材にしていて、今まで人とコミュニケーションを取るうえで空気を読まずにやりたいようにやってきた卯月が”空気を読む”ことを知るお話。

 

高校生と大学生というのはやっぱり別物です。同じ空間に押し込められて同じことを強制されるのが高校生だとしたら、大学生は外面だけをなぞると似てるように思われがちですが、選択肢が無数にあって、まるっきり同じ授業を取らないといけないかというとそうでもなかったりする。無理して合わせる人間関係というのも少しずつニュアンスが違うものだと感じます。

 

まだこの一冊は導入の一冊に過ぎないとは思いますが、高校生時代とは明らかに違う微妙なニュアンスを端々から感じ取ることができて、良い一冊だったなあ、と。

 

ただ少し不安な部分も個人的には感じていて、思春期症候群は咲太のものであってほしいという思いがあります。いや、違うだろと冷静に突っ込まれればその通りなんですけど、咲太の身の回りから少し距離を取った場所で起きた出来事を咲太が首を突っ込むのは少し違和感のようなものを覚えてしまう自分がいたりします。

 

咲太は決してスーパーヒーローじゃないし、なる必要だってないんですよね。咲太の心は無条件に誰でも慈しむようなものではないし、自分の手が届く範囲をなんとかしたいって、そういう拙い咲太が好きなので今後の展開がどのような広がり方をしていくのか純粋に気になります。

 

また初登場になる美東美織もとても良ヒロインの香りがする……!

まだ顔みせ程度で具体的な大筋に関わってきてはいないのだけど、おそらく今後のキーパーソンになるであろうことは予見できます。咲太とのテンポの良い掛け合いは気持ちが良かったし、思春期症候群というワードを一番に引用したのもこの子でした。大学生の咲太を再び思春期症候群で悩ますのは彼女なのかなあと色んな妄想が膨らみます。

 

あと、思春期症候群といえば霧島桐子も非常に気になるところ。まるで今回の卯月の思春期症候群を自らが引き起こしたかのような口ぶりであったり、麻衣さんとつながりがあることが風の噂ですが囁かれているような話もあったので、どのような形で咲太と関わってくるのか目が離せない不穏な雰囲気をすでに醸し出しています。

 

さてさて、大学生編もまだまだ始まったばかり。翔子さんの物語があまりにも出来が素晴らしくて、これ以上ない仕上がりになっていたので、ハードルは高くなるばかりですが先の物語も楽しみだ。