かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

ぼくたちのリメイク 十年前に戻って本気になれるものを見つけよう!/木緒なち

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

皆がやりたいことをやれるわけじゃない

 

 

僕、橋場恭也はある日、意識だけが十年前に戻って憧れの芸大生に! 後の超有名クリエイター達と同回生になり今日も彼らと一緒に課題の制作や学園祭の準備に奔走中。河瀬川英子らも合流したチームきたやま・改の作品は上映会で高い評価だったが観客の反応は悪く、周囲には役者だったナナコが足を引っ張ったと言われてしまう。追い打ちをかけるように加納先生や英子に役者への志を問われ心を閉ざしてしまうナナコ。未来からやってきた恭也がナナコの才能を開化させるために考え付いた秘策とは――。
「頑張るのはナナコだよ。でも……頑張るためのことなら僕は何だってする」
いま何かを頑張っているあなたの為にある青春リメイクストーリー、飛躍の第2巻!

 

本当にやりたいことがあっても、やれるだけの才能の欠片があるってわかっても、なかなか人はその道を極められないことってありますよね。今回はそんな確かな才能を感じさせながらも逃げてきた小暮奈々子のお話。

 

物語は課題である映像作品を制作しているところから始まる。前回の上映会で高い評価を得たチームきたやまは河瀬川英子なども含めた新体制『チームきたやま・改』として新たなる映像作品をつくっていた。

 

油断も慢心もなく自分たちの出来る限りの力を賭して迎えた上映会当日。チームきたやま・改は見事に一番の評価を獲得する。だが、周りの様子もチーム内の表情も芳しくない。なぜなら上映会で二番の評価を得た作品の粗削りだけど光るものに圧倒されてしまっていたから。

 

中でもナナコの演技が取沙汰されて叩かれる結果となってしまい、ナナコは心を閉ざす。本当にやりたいこと。自分にできること。考えていく中で本当に心から役者をやりたいのか問われたナナコは答えられない。だって、ナナコが本当にやりたいと思っているのは歌だったから──

 

そんなところから始まる本作ですが、青春のほろ苦さが際立つ巻になっていて非常に良かったです。ナナコの不器用な感情がすごく胸を打ちます。誰だってできるものならやりたいことをやりたいです。でもそう上手くはいかない。

 

できることとやりたいことって違うんですね。だからナナコは人よりもちょっとうまく振る舞うことができた演技を率先して披露していた。けれど、その心理を見抜かれて、本当にやりたいことまで見抜かれたナナコの心の痛みってきっと誰しも大きくなるうえで経験していくものなんだと思います。

 

これくらいでいいやって。自分の持っているものを褒めて貰えてることに対する優越感を味わったり、褒めて貰えてるんだからこれで大丈夫なんだと自分を正当化してしまう時期って等しく訪れるものなのでしょう。

 

 ただ本当にやりたいことがあるならやってほしい。できることだけやって満足しないでほしい。ナナコの胸に真っ先にナイフを刺すのが英子だというのは憎いなあと感じました。

 

自分が不器用だということ、自分の出来ることが少ないことも自覚していて、それでもやりたいって気持ちは人一倍あって、だからこそ磨けば光るに違いないものを持ってるナナコが羨ましくて仕方なかったんでしょうね。

 

また、ナナコのことをやさしく支える恭也の姿も印象的です。時間をさかのぼってきたからこそナナコをうまく導いてあげられた展開はタイムリープという設定を無駄にしないものにもなっていたかな、と。

 

そして、これ思い切りネタバレになるから言いませんが後半の挿し絵ええええええええええええええええええええええええええええええええ!!

 

非常にえれっとさんが良い仕事をしていると思いました! 今後物語がどう転がっていくのか素直に気になるなと。

 

そして次回はどうやら貫之の話になりそうな幕引き。確かに今回だけでみても貫之に関しては不穏な動きがありましたし、優等生だった彼は授業にも参加しないで何をしているのか、どうなってしまうのか。非常に楽しみだと思います。