かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない/鴨志田一

 

 お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

花楓の成長に胸が熱くなる一方だ!!

 

 

 

 

 

 

 

うずたかく積み上げられたドラマがあるからこそ何気ない台詞や描写に涙腺を刺激されてしまう。花楓の行動の中にまだ”かえで”の姿が残り続けていてそれが嬉しいと思う自分やどこか寂しく思う自分もいて感情がごちゃ混ぜだ……。

 

物語は咲太がやっとのことで取り戻した平穏な日常を送るところから始まる。当たり前の幸せがいちばん幸せなんだって。温かな毎日に身を任せながら幸福を噛みしめる咲太の様子は変わらない友人たちと交わす何気ないやり取りからいくらでも読み取れる。オールスターとも呼べるメンツが登場するのもきっと咲太が戻ってこられたことをやさしく伝えてくれているんだろうなって思う。

 

だけど、変わらないものなんてない。麻衣先輩の卒業の日が近づくにつれて、咲太も受験のための勉強を強いられ、同時に迫られるのは宙ぶらりんになった花楓の進路。本来の自分を取り戻した彼女が決めないといけないのは今後の自分の進むべき道。そんな咲太のたった一人の妹が重々しい口を開いて言った願いは『峰ヶ原高校に通うこと』だった。

 

もうね、思春期症候群というある種の大きな出来事に巻き込まれるよりもずっと単純でささやかな彼女の目標を聞いただけなのにこんなに胸に響くのはどうしてなんでしょうかね。

 

これまで花楓を支えてきた”かえで”という存在。これからは花楓として生きていかなきゃならない現実。小さな身体に色んな感情を宿しながらも自分なりに前に進んでいこうというその姿勢だけで今までのことを思うと泣けてきちゃう。

 

本作で描かれた主題って『自分って誰だろう』ってことなのかと思う。自分のことを自分で証明することはできない。誰かが認めてくれることで初めて自分という存在には価値が生まれる。

 

だからこそ花楓には自分の証明の仕方がわからなかった。だって今の温かな身の回りを作りあげたのはたった二年間とはいえ自分の中にいた”かえで”に他ならないから。他人が騙った自分を問答無用で支えてくれる存在をどう捉えたらいいかわからなかった。

 

けれど、分からなくても生きていかなきゃいけない。そして、その中で自分を証明するために大事なのは自分に嘘を吐かないこと。きちんと納得して選択をすること。だから色んなひとに支えられながら遠回りをしたのだとしても花楓が選び取った最後の結末に僕はとても満足しているし、ようやく花楓が帰ってきたことを予感して、ほろりと涙してしまった。

 

そして、この一冊で気になるのはやはり新展開というところ。ひっそり僕が思ってたのは青ブタはもう終わってしまうんじゃないかってこと。花楓が成長して、麻衣さんも卒業して、物語はフィナーレに向かっているようにも感じる。

 

ただ今巻の引きを考えるとこのまま物語が終わることはなさそうなので非常に胸が高鳴った。夢に見た幼い麻衣さん。声をかけられた砂浜。これが示すことはいったい何なのか。咲太たちを待ち受ける次なる思春期症候群とはどんなものなのか。今からワクワクしながら続きを待ちたい。