かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

友達の後ろで君とこっそり手を繋ぐ。誰にも言えない恋をする。/真代屋 秀晃

 

お気に入り度:★★★★★

 

<感想>

爽やかな青春からの不純恋愛への落差が憎い!!

青春は恋愛だけではない。けど――。この恋だけは気づかれてはいけない。
「青春=彼女を作ること? 青春ってなにも、それがすべてじゃないだろ」
恋にトラウマを持つ高校生、古賀純也は恋愛よりも友達とわいわい騒いで友情を育むことこそが、青春だと思っていた。
男女の親友五人組で綺麗な星空を見たり、ファミレスで朝まで駄弁っている今この時こそが、自分達の青春だと。
――なのに、どうして俺達は相手が友達でも、恋をしてしまうんだろう。今までどおりの関係じゃいられなくなるかもしれないのに。
グループ内の一人、成嶋夜瑠が隠していた本音を知ったことで、純也と彼女の間に共犯関係が生まれ、意図せずお互いの傷に触れていく。
友情と恋心が交差する、まっすぐな気持ちと歪んだ想いをつづった青春恋愛劇。

 

こんばんは、カッパです。

今回は「友達の後ろで君とこっそり手を繋ぐ。誰にも言えない恋をする。」の感想記事となります。

 

いやあ、この一冊は本当に素晴らしい不純恋愛の作品となっていたのではないでしょうか。昨今トレンドにもなっている陰のある不純な恋愛モノではあるのですが、個人的にはひとつ引っ掛かるところがありまして、「不純」を前面に押し出しすぎて助走が足りないと思うことが多いんですよね。

 

登場人物の人となりを掴む前に恋愛パートが始まってしまうのもひとつの理由ではあるのですが、個人的にはこのキャラってこうだよね。こう行動するよねって前提の擦り合わせをしてから始まるふしだらな関係の方がより背徳感であったり、感情の浮き沈みを実感できるタイプなのでそこは大切にしてほしいよねって思うんです。

 

この作品はそこのツボをしっかりと押さえているというか、後半に差し掛かったところで見事にやられた~~という気持ちにさせられたので衝撃度が主観ではそこにある事実以上に重くのしかかってきたんですよね。

 

大満足の一冊であるのと同時に、強く期待のできるシリーズだと感じました。

 

物語は、過去のトラウマから恋愛より友情を優先する少年・古賀純也《こがじゅんや》が所属する仲良しグループを中心に動き始めます。恋人と過ごすということは、友人との時間を削るということ。そりゃ彼女がいれば幸せなんだろうけど、友達とぐだぐだ思い出を作ることが楽しいから、それを犠牲にしてまで恋人は必要ないと考えているんですね。

 

仲良しグループは男三人、女二人の構成を採っていて、何をするにしても五人は一緒で共通の時間を作るような関係性でした。けれど、その五人は腐れ縁というわけではなく高校に入ってから出来上がったものだったりもするんですね。

 

男三人は中学の頃に「彼女作らない同盟」なんかを結成するほどの筋金入りの友情至上主義者で、少女二人が後から入ってきた流れになります。ただ、その一人である成嶋夜瑠《なるしま よる》については、明らかに宮淵青嵐《みやぶち せいらん》狙いで入ってきた少女ではあるのですが、すべてを分かった上で仲良しグループでの日常は続いていました。

 

大きく物語が動き出すのはそんな夜瑠が帰り道で純也に話があると切り出すところから。なんと大人しくて清純な雰囲気の夜瑠が見せた本性は恋愛体質で青嵐と近づくのを邪魔するなと牽制してくるような強気な少女だったのです。

 

夜瑠は純也がグループ内のもう一人の少女である朝霧火乃子《あさぎり かのこ》に惹かれていることを見抜いていたため、なんとか彼女もアリなのではないかと思うように積極的に純也に関わってくるようになる──というのが、ざっくりとしたあらすじになります。

 

ああ、この物語が僕は好きだなって思ったのは「不純」の形が散りばめられているところにあると思うんですよね。だってこのあらすじだけで見ると、夜瑠が好きでもない純也に言い寄って女性の良さに気付かせようとするポーズがもうどこか淫らに映るんですけど、この作品ってまだまだその要素が飛び出し続けるんですよね。

 

個人的にやられたと感じたのは序盤から展開されるストーリーラインって完全に爽やかな青春モノとしてのそれなんですよね。恋愛も良いものだけどやっぱり友情も捨てがたいと感じるのは夜瑠の心を救う流れが友情の上に成り立ってるからなんですよね。

 

ただそれだけ徹底的に友情を描いたあとに一転して不純をぶち込んでくるから、その落差でもう一気に心を持っていかれました。友情は良いものだという結論からの不純。僕が求めていた物語です。

 

また魅力のひとつはその青春ストーリーが終盤の展開のための撒き餌みたいなことは全然なくて、王道のすかっとする質の高い男女の友情物語として呼吸をしているから余計に心にずしんとダメージを与えてくれるんですよね。

 

また、友人である田中新太郎《たなか しんたろう》も良い味を出しています。純也の苦しい過去を乗り越える手助けをしたのは間違いなく新太郎で、そんな彼が夜瑠に抱いた感情を前にして現在の状況から背中を押してやれなかったという事実を経て至る終盤の展開。

 

もう天晴です。誠実じゃない、後ろめたい感情のオンパレードです。でもそこが実に人間らしくて、大人になれない高校生らしい青臭いところでもあると思っていて、僕はぐっと胸を掴まれました。

 

最後に明かされるのは実は火乃子も純也に想いを寄せているということなのが、これまた続刊以降での波乱を予感させていて抜群に良い引きになっています。

 

いやもう次巻も楽しみに待ちたいと思います。