かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

※妹を攻略するのも大切なお仕事です。/弥生志郎

 

※妹を攻略するのも大切なお仕事です。 (MF文庫J)

※妹を攻略するのも大切なお仕事です。 (MF文庫J)

 

 お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

たとえ仲の悪い兄妹だとしても編集者とイラストレーターとしてやっていけるのなら!!

 

 

 

 

 

 

 

 

これはめーっちゃいい兄妹ものですね!

しっかり兄弟の仲の悪さのきっかけになったものが物語の中核を支えているから作品のドラマ部分をぐっと力強く支えている。仲違いした兄妹が新しく始めるために用意された関係性も二人におあつらえ向きの役割でいい味出しているかなと。

 

物語はラノベ編集者の賀内の担当作『俺しか』のイラストレーターが降板するところから始まる。イラスト変更は作品にとっての大打撃だ。代役のイラストが決まらない日々に焦りを覚える賀内だったが偶然目にした一枚のイラストに目を奪われる。

 

それはとあるエロゲの一枚のメインビジュアルだった。どこまでも可愛い美少女。それどころか前イラストレーターの絵柄に雰囲気まで似てるときた。この運命のような出会いに逆らえるわけもなく賀内は早速そのエロゲの原画家にオファーを出すことに。

 

ところがどっこい、ここで物語は急転直下。なんとそのエロゲの原画を担当していたのは実の妹だったのだ。まだ弱冠高校生の女の子。過去の因縁により仲が著しく悪い兄妹の対面である。

 

かくして編集者の兄とイラストレーターの妹で始めるライトノベルの作り方の始まり始まり~ってな導入なわけなのですが、もうね、これが実に良い作品に仕上がっている。

 

仲の悪い兄妹ってそれこそ『俺妹』という大きな金字塔の影響力か、決して少なくないのが現状の市場なのかなと思うわけです。ぷりぷり怒った妹にでへへと鼻を伸ばしてデレた妹に発狂するまでがオタクのテンプレ。

 

ただどんなテンプレにもきちんと理由を用意してほしいというのが僕の意見です。この作品はそこがしっかりしてるんですよね。兄妹の仲が悪くなった原因。そしてその要因が及ぼす二人のすれ違い。『仲の悪い兄と妹』って記号で終わっていないところが一番の魅力かなと思う。これだけで説得力がガツンと増します。

 

また『俺しか』という劇中作に絡む人たちの思いが胸を打つんだこれが。ここは是非読んでほしいと思うので細かくは語らないけれど『夢』を象徴したものになっている。誰かの思いを誰かが引き継いでまた別の新しい何かを作り上げていく。

 

読者の求めるものと自分のやりたいことがいつも重なっているわけではない。おそらくクリエイター皆が抱えている悩みの種が本作でも色濃く描かれている。売上至上主義の兄貴、自分の信念を貫く妹。そこの衝突への決着も少し都合が良いと感じる面もあるけれど、やっぱり熱くて、僕の好きなやつなんだ。

 

まだある。特に僕が好きなのは兄弟の距離感だ。確かにベタな台詞を吐いて妹が兄貴から距離を取るのはテンプレートなのだが、二人の間の空気感というか雰囲気にどことなく露骨な『作り物』感が薄いように思える。その絶妙の塩梅に僕は読んでいてどこか癖になるような感覚を味わった。

 

長い兄妹喧嘩が終わるとき、きっと僕らはこの兄妹に拍手を送りたくて仕方なくなるだろう。だってズルイじゃん、あんなの。