かっぱの書棚

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純真を歌え、トラヴィアータ/古宮九時

 

純真を歌え、トラヴィアータ (メディアワークス文庫)

純真を歌え、トラヴィアータ (メディアワークス文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

好きなことをやるのに資格なんて要らないから!!

 

 

『――私は、夢に届かない』
トラウマにより歌声を失い、プロのソリストの道から脱落した少女・椿。幼い頃から全てを捧げてきた夢を失い、残ったのは空虚感だけ。そんな中、椿はオペラの自主公演を行う“東都大オペラサークル”の指揮者・黒田と出会い……。
才能を持たざる人間の、夢と現実。歌声を失った歌姫と、孤高の指揮者――希望を見失った二人が紡ぐ、《挫折》と《再生》の物語。

 

あぁ、これは最高の青春ですね……。

音楽と才能の物語。努力が必ず実るわけではない。厳しい現実を突きつけてるんだけど、そんな世の中でも完全否定はされない。どこかであなたは生きていけるんだよってやさしく説いてくれているような温もりを読みながら存分に味わった。

 

物語はある日のコンサートで心に傷を負って歌えなくなったソリスト・椿が自身の通う音大を卒業するところから始まる。かつて親友といっしょに音楽の道を行くと決めた彼女の決意は反故となったのだ。

 

彼女の中で音楽の存在は全てだった。さながら半身のように苦楽を共にしてきた打ち込むモノを失った椿は心を取り戻せないまま新しい『何か』を探す日々を送っていた。

 

そんな椿が出会ったのは自主公演のオペラを定期的に開いている『東都大オペラサークル』だった。心を惹きつけて止まない音の洪水に椿はすっかり心を奪われてしまった。

 

この物語が素敵なところは挫折した少女が立ち直るまでを丁寧に描き切っているところ。誰しもが経験するであろう壁にぶつかったときどう行動することで背中に張りついた闇を振り払えるか、といったところを一冊をつかってじっくりと語り聞かせてくれる。

 

努力すれば必ず叶うならみんな無茶な夢を見ることだろう。ただ現実とは残酷なもので、夢には定員がある。その数を超えればたちまち輝かしい居場所から振り落とされてしまう。

 

それはとても悲しいことであって、とても惨いことであると同時にそれが全てじゃないって穏やかにたおやかに描いてくれているからどこか安心して読める作品だなと感じた。