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通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?/井中だちま

 

通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか? (ファンタジア文庫)

通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか? (ファンタジア文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

第29回ファンタジア文庫大賞、大賞受賞作!

 

<感想>

僕も母ちゃんに会いたくなりました!

 

発売前からタイトルのインパクトと売り方の奇抜性で注目されていた一作でしたが、いやはや濃厚な一作でした。ノリと勢いでガンガン突き進む質の高いギャグファンタジーではあったのですが、母と子ってこうだよなっていつかの感情が呼び起されたり、中身は存外きっちり考えて作られてるなという印象を抱きました。

 

舞台となる世界はMMMMMORPG。主人公・大好真人はとある事情から念願のゲーム世界への転送の夢を叶える。ゲーム世界では勇者の称号を与えられ、初回ログインの特典により伝説の剣を手にして、真人は自分がこれから勇者として羽ばたくのだと思っていた。

──「これからお母さんと一緒にたくさん冒険しましょうね」

しかしながら、息子のことを溺愛している真人の母・真々子もゲーム世界に転送され、ともに冒険に出ることに。しかも母親であることを理由に優遇された真々子は真人よりも活躍してしまう始末。新しくできた仲間、始まった冒険、けれど救うのは世界の絆ではなく親子の絆。果たして、真人は母親と一緒に冒険の旅に出て仲良くなることはできるのか──

 

たぶん読まなくてもわかると思います。この作品は母親の物語です。母親の真々子をメインヒロインに配置して大活躍しちゃう、ともすれば需要がないんじゃないかと疑ってしまう箇所にステ振りをしたある意味でフレッシュな作品となっています。

 

じゃあ本編もそれくらい尖りに尖ったものになっているかというとそうではありません。確かにポップにコミカルにお話が展開されるのですが、徹底して描かれるのは母と子の絆に関してです。親子の縁を切ることなんてできない。口ではどういっても、感情がどう判断しても、母親のことを芯から忘れてしまう子供なんているはずがないんですよね。

 

過保護で面倒くさいなって思っていてもいなくなると寂しくなったり、模範的な母親でないことを指摘したくなることがあってもそれは母親のことを愛してるが故の子供のエゴだったりするんでしょうね。

 

物語としてはもうちょっとここで盛り上げて、ここで盛り下げて、といった強弱が遭った方がラストの感動はあ増したのかなと感じる面もありましたが、新人賞らしく勢いと空気感が大事にされていて良著にまとまっていたと思います。

 

キャラクターはやっぱり真々子! いや、僕って母とそこまで仲が良かったわけでもないので母親ヒロインかあと後ろ向きだったのですが最高でしたね! すぐにお節介を焼きたがって、自分がいかに息子のことを愛しているかを語って、最後には母親として身体まで張る。なんて魅力的なヒロインなんだと! めんどくさいのはめんどくさい! それはわかる! でも理想的な母親だと思います! 一家に一真々子! 僕はその意見を推していきたいと思います!

 

近年のファンタジア大賞はこういったポップなものよりもがっちりした育成モノが受賞する傾向があったので新鮮で良かったかなと思います。圧倒的なキャラクター。それもライトノベルの醍醐味のひとつなので今後の展開に期待したいところ。育成枠は銀賞枠がそれっぽい? のでファンタジア文庫さん的にはまだまだそれも売りたい路線なのかなあと思ったりもしますね。

 

さてさて、続刊も出るようで今度は学園モノということで余計に頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってるのですが、次巻も買うと思います。お母さんのために!