かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

美少女とぶらり旅/青季 ふゆ

 

お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

美少女とぶらり旅がしたい人生だった

可愛い女の子と、食べて話して恋をする!

忙しない日常から逃れて旅がしたい! そんな望みを、学年一の美少女と叶えられたら?

東京に住む高校生、高橋翔は窮屈な日常に嫌気がさして旅に出ることを決意。駅のホームに着くと同級生、七瀬涼帆の姿があった。
思い詰めた様子の彼女を見て、翔は「俺と一緒に旅に出よう!」と誘って――。

最初は不信感たっぷりだった七瀬も、いつもの鉄仮面を脱いで足湯にほっこりしたり、ご当地グルメに舌鼓を打ったりと満喫し始める。

「べ、べつに楽しんでなんかないんだから!」
「私、夕陽が好きだったみたい」
「ありがとう、私を旅に連れ出してくれて」

ワケありクーデレ美少女と紡ぐ、解放感120%の旅ラブコメ!

 

いやあ、実に良い旅モノでした。一期一会という言葉があるわけですが、旅から切って離せないそれを実に魅力的に描いてくれた一作。美味しい食べ物に、綺麗な景色、個性豊かな登場人物。それらに触れることでちょっぴり成長していく翔と涼帆の関係性が純粋に好ましかった!

 

物語は進路の話で親と衝突した主人公・高橋翔が窮屈な世界から逃げ出したくて旅を始める決意をするところから始まります。後先考えずに一時の感情で走り出してしまうのは高校生の良いところでもあり、悪いところでもありますよね。開幕から読み取れるのはそんな青春の青臭さ。

 

いざ飛び出そうと駅に着いたところで翔が遭遇するのは美少女同級生である七瀬涼帆。今にも駅のホームに飛び出してしまいそうな彼女のことを引き留めて一緒に旅に出ようと提案するところから大きく物語が動き始めます。

 

ここに翔の思い切りの良さであったり、溢れんばかりの行動力が表れていて、のちに語られる彼の将来のやりたいことに繋がっているという構図は説得力があって良かったです。

 

で、学校でもろくに関わりのない二人が仲良くなっていきますよという王道の物語が展開されていくわけなのですが、何が良いってタイトルにもなっている『旅』というテーマがやっぱり新鮮だからなんですよね。

 

旅行というのは自分の手の届く範囲のものであるのと同時に、高校生にとってはちょっとした非日常として捉えることもできるので読んでいても素直にワクワクしますよね。

 

具体的な場所としては熱海・浜松・浜名湖といった静岡周辺の絶妙なチョイスをしているところも面白いなあと思ったところです。高校生の一大イベントで取り扱われるような大都会に繰り出さないところにこの二人らしさが出ていて印象が良かったです。

 

とても高校生とは思えないようなブルジョワ旅が展開されるのでそこはもしかすると突っ込みどころかもしれないんですけど、今のご時世、大手を振って旅行に行くのも躊躇われるという背景もあるので、個人的には創作の世界ではこれくらいやってくれた方が清々しいと思う派だったりします。

 

旅の中ではその地域に根差した食べ物や景色も出てくるのですが、登場人物も個性的でした。同性に好意を寄せたギャル。仕事に明け暮れたOL。この二人が単体のキャラクターとしても、主役の二人の心を掘り下げるのにも非常に大事な役どころで良い仕事をしていたなあ、と。

 

ギャルである瑠花からは失敗してもそれで終わりではないのだというエールであったり、OLである七瀬さんからはやりたいことをやり抜く勇気だとか。二人の旅をするための後ろ暗い理由を照らすファクターになっていてしつこすぎず、あっさりしすぎず良い塩梅だったと感じました。

 

と、まあ色々書いてはいますが何よりも肝心の主役二人の少しずつ心を通わせていく繊細な心の機微がとても良かったんですよね。何から何まで正反対の二人がそれでも旅の五日間の中で互いのことを思いあって、迎えるラストには込み上げるものがありました。

 

著者の特徴でもある畳みかけるような後半パートの勢いは相変わらず健在で、そこも個人的に気に入ったところかもしれません。

 

軽い調子だけではなく、なぜ涼帆がそこまで思い詰めていたのかという理由であったり、そこに対する翔のフォローであったり、旅だけではなくヒューマンドラマとしても楽しめるのでオススメの一冊かなと。

 

いやあ、ぜひとも二巻が読みたい!!