かっぱの書棚

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1パーセントの教室/松村涼哉

 

1パーセントの教室 (電撃文庫)

1パーセントの教室 (電撃文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

 

<感想>

平和の中に潜む歪みが今後どうなっていくか気になる!!

 

「恋をしました、キミに――」 平凡男子高校生の雨ケ崎誠也に突如訪れた非日常。それは、クラスの美少女からの、愛の告白だった。 彼女の名前は日比野明日香、校内でも一際目立つ、超絶美少女だ。だが、彼女には、そばにいる人間を悉く不幸にする“死神”という噂があった。 けれど、それは完全な間違い。なぜなら、彼女が人を不幸にするのではなく、これから不幸になる人間を好きになってしまう、特異体質だったから。 死神に好かれた者は、やっぱり破滅する。絶望する雨ケ崎に、日比野は「悲劇を回避する術はある」と静かに告げた――。

 

松村涼哉先生の持ち味と言えば後半であっと驚かされるインパクトある展開だったり真実だったりが多分に占めてるというのが僕のイメージなのですが、そういう意味では今作がらりと作風を変えてきた印象を受けました。

 

シリーズ物を前提とした企画なのか衝撃度の高い物語運びを避けたり、どこか連作短編を思わす構成だけを取ってみてもこれまでとは違う空気を感じるな、と。ただそんな路線変更を受けて、明らかに作風も文体も柔らかくポップになったのに詩的で読ませる文章が健在なのは流石だなあと感じました。

 

物語は『死神』と称される少女・日比野明日香に主人公が愛の告白をされるところから始まります。主人公はどこか人と深いところで関わることを敬遠する少年なのですが、『死神』と出逢うことにより人との関わりを余儀なくされていきます。

 

 人と関わることで少しずつ変わっていく誠也には好感が持てます。

 

圧倒的にうまいのは一見すると平和で平穏で幸せな教室の端々から歪みや恐ろしさを匂わせる描写は見事だと感じました。そこが一番らしさの出たところかと。 

 

ただ気になったのは『絶体絶命』であったり『死神』であったり『破滅』といった謳い文句を前にすると物語のスケールがすこし力負けしているかなぁと思わなくもないところかなあ、と。

 

もっと主人公が死の一歩手前でなんとか命を拾いながら進むストーリーを松村先生の作品と聞くと想像するところもありますし、今のところ明日香が『死神』というせっかくの美味しい設定が宙ぶらりんになっちゃってるところも消化不良気味。

 

おそらくシリーズ物としての導入の巻ということもあって比較的マイルドかつ謎を残したスタイルで売り出したのだとは思うので、今後の展開次第ではもっと化ける作品なのかなあ、と。