かっぱの書棚

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塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い/猿渡かざみ

 

塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い (ガガガ文庫)

塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い (ガガガ文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

<感想>

塩対応どこいっためちゃくちゃ砂糖大盛りやぞ!!

「佐藤さんは高嶺の花で誰に対しても塩対応。でも、意外と隙だらけだって俺だけが知ってる。写真を撮るのが下手。そのくせドヤ顔しがち。そして、へにゃっと笑う顔がすごく可愛い」「押尾君は誰に対しても優しい。でも、意外といじわるなところもあるって私だけが知ってる。SNSを使うのが上手。オシャレなカフェの店員さん。そして、悪戯っぽく笑う顔にすごくドキドキする」―これは内緒だけど、俺(私)はそんな彼女(彼)のことが好きだ。初々しくて、もどかしい二人の初恋。尊さ&糖度120%!両片想いな甘々青春ラブコメ!

とにかく両片想いの初々しくもありながら甘ったるい恋模様をコメディタッチで読みたいのであれば、これを読まないと2019年は終わらないという意思を感じました。

 

重度の人見知りから人に対して冷たく接してしまう佐藤さんと、そんな彼女に恋心を覚えている押尾くんがSNSに写真をあげるために写真の撮り方を教えてあげるところから始まる物語。

 

もう最初から甘っったるい。その理由はやはり物語の序盤でお互いがお互いに片恋慕していることが二人の視点を切り替えることで判明してしまうからでしょう。

 

お互いがお互いのことをまったく同じタイミングで意識したというエピソードだって読者は同時に知ってしまうから、二人の心の中をこっそり盗み見た気持ちになってしまうし、その純粋な想いの結晶を一緒に応援したくなってしまう。もう親の気持ちです、親の気持ち。

 

また、この二人が不器用で初々しいのも応援したくなってしまう理由のひとつなのかもしれません。お互いがお互いのことを意識していることがバレバレなのに対し、二人だけは最後までお互いの好意に気づかない。

 

恋愛初心者の二人は一歩を踏み出すのにも沢山の勇気が必要で、少しずつ距離を縮めていく様が可愛らしく描かれているので、読者としては「おまえらさ~~~~~」と悶絶する他ありません。

 

SNSの使い方も上手かったと思います。近頃のラブコメにおいては、SNSというのは珍しくもないツールとなってきたけれど、佐藤さんがSNSを始めるきっかけが押尾くんが実家の洋菓子店の公式アカウントで写真をアップロードしていたところに起因します。

 

写真はその人の物の見方そのものと言っていいと僕は思います。今日どんなものを見たのだろう。いったいどういう風に見たのだろう。その答えが写真にはいつだって表れています。大好きな人の心を知りたい。その好奇心を一歩引いたところから眺めたい人見知りな佐藤さんの個性が抜群に出ている要素と呼べるんじゃないでしょうか。

 

また、最後のSNSで写真をあげることに対して、押尾くんが口にする感情がとても素敵だと思うんです。難しくもない。高尚すぎもしない。等身大の高校生が、恋を始めたばかりの男の子が口にする言葉として非常に的確だと感じました。

 

確かに写真なんてたかが写真です。いつかは忘れてしまう程度の光景を忘れてしまわないように写真に残しておくだなんて浅はかかもしれない。その気持ちは重々理解できる。けれど、事実なんてどうだっていい。忘れたくない。この一瞬を。もう二度とやってこない今を忘れたくないと思う気持ちが浅はかだとは決して思いません。

 

それは佐藤さんの気持ちがわからずに、これが報われない恋になる可能性だって秘めていることを理解した押尾くんが口にするから胸にグッとくる。涙を流しながら佐藤さんのお父さんに相対する挿し絵はとても印象的でした。

 

ぶっちゃけ一冊の本として荒いところは荒い。物語を強引に押し進めてしまっているところだってある。だとしても、平和で、穏やかで、悪役の登場しない、やさしい世界で、覚えたての恋に翻弄されながら毎日を生きる甘ったるい男の子と女の子の物語があってもいいじゃないかと思います。そんな物語を読みたいとすら。

 

不器用で拙い二人の恋の行方。この先も追いかけたいと素直に思いました。