かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

弱キャラ友崎くん Lv.9/屋久ユウキ

 

弱キャラ友崎くん Lv.9 (ガガガ文庫)
 

 お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

みみみ、やっぱりおまえが好きだ!!

付き合って初めて、わかること。

冬。彼女である菊池さんとすれ違ってしまった俺は、言葉を重ねてもう一度心の距離を近づけようとする。

そのなかで、俺は自分の業とも呼ぶべきものに向き合うことになる。
それは、今まで気付かなかった菊池さんの一面をも明らかにして――。

弱キャラのままでは絶対に気付かなかったこと。気付けなかったこと。
そして、俺にとっても菊池さんにとっても特別な、日南葵という存在。

俺は初めての彼女と、この難問をクリアすることができるのだろうか。

人生のバイブル的青春小説、待望の第9巻!

 

付き合って初めてわかることがある。そんなことは知っていても、この物語があまりにも重くのしかかってきた。

 

あと、僕から言わせればやっぱりみみみなんですよね。シリーズ当初からブレずに大好きなキャラクターなんですけど今回も非常に大事な役割を担ってくれました。

 

章タイトルの「たいせつなものを捨てようとすると、いつも誰かがとめてくれる」が刺さらないわけがない。

 

今の友崎が形成されるのに日南の存在は欠かせなかった。今のポジションを獲得するには彼女に導かれる必要があったし、その道を進むことを決めたのが1巻です。

 

じゃあ、具体的に友崎の努力が外部に影響し出したのっていつかと考えると、間違いなく2巻だと思うんですよね。みみみの話。

 

けれど、今巻では友崎は2巻から少しずつ少しずつ手に入れてきた今の立場や交友関係、いろんな大切なものを捨てて、菊池さんが怯えなくて済むような恋人であろうとする。

 

でも、それはダメだよって止めてくれるのがみみみ。最高かよ。

 

2巻でたいせつなものを捨てようとしたみみみを踏みとどまらせたのは友崎文也その人で、その構図を逆転した展開になってるんですね。これは思わず息を吐き出さずにはいられなかった。

 

変わらず友崎のことが大好きだという気持ち。大切なものを失わずに済んだ安心感。そのどちらの味も知っているみみみだからこそ、この行動には重さも説得力も生まれていて、ぐっと胸の奥が熱くなりました。

 

みみみ、好きだ。

 

友崎のことを陰で支えるという意味では水沢もかなり良い役どころになってきて、名実ともに友崎の一番の友人なんだなと強く感じます。

 

「人と人が本当に大切なことを話せるのは──付き合ったあとに決まってんだろ」

 

このセリフがとても印象的でした。ヒロインと付き合うまでを描く物語が多いからこそ見失ってしまいがちですけど、付き合ってからの方が大変なんてことは当たり前なんですよね。

 

それにしても水沢という男はいったいどこまで見通しているのだろうと考える。友崎と日南の関係性。その間に横たわった複雑な感情まで、ある程度の察しがついているのではないかと思ってしまいます。

 

順番が前後してしまった感があるのですが、今回はなんといっても菊池さんとの結末について語らないといけないですよね。

 

『ゲーマー』としての業を背負う友崎。

『小説家』としての業を背負う菊池さん。

 

友崎くんシリーズの特長はなんといっても人間ドラマの背後にある人間臭さだと思っています。一筋縄ではいかない突き詰めた生々しさを孕む人間性。その極致とも言える絡まり具合が最後までずっと付き纏っていました。

 

友崎の選ぶ選択には菊池さんを諦めるという可能性の方が高いとも思っていたくらいです。

 

男女交際の定義は人それぞれにあると思います。自身の責任を相手に預けることができる関係性と紐解く人もいれば、付き合ってもあくまで個人と個人。後者の考えが友崎のそれですね。

 

世界を広げて、やりたいことをやって、それでも好きな人には好きと伝えたい。言ってしまえば友崎の考えは自己をとても大切にしたもので、そこに菊池さんが不安や嫉妬を覚えるのは仕方がないと思えます。

 

ただ、そんな友崎のことが好きで、そんな彼の生き様を見届けたいとも思う作家性を抱えた菊池さんの『矛盾』は記号的でない人間らしい思考だと感じました。

 

互いの抱えた業がぶつかり合って、二人の距離を引き離そうとする様は最後の最後まで結末が読めなくてめちゃくちゃ読みごたえがありました。

 

あと、菊池さん可愛すぎません?

僕はみみみが好きだとシリーズが終わるまで言いますし、終わってからもみみみが好きだと叫ぶ準備はできているのですが、そんな僕でも菊池さんの可愛さにはくらっとやられました。

 

友崎が天使と称してしまうことに納得をしていましたが、付き合ってから見せる些細な表情や仕草、確かに示す独占欲に、友崎への気持ちの強さ。

 

これも付き合ってからを描いた物語だからこそ見せられる物語だと思うと、付き合ってからも描く物語ももっと増えてほしいなと思うばかりです。

 

また、日南葵に関しても触れておきたい。

 

今回で、日南という少女の隠された素顔が明かされましたが、アニメ放送が始まった今のタイミングでこの謎が解き明かされたのは良い判断だったと思います。

 

行動に常に理由を求め、正しさを必ず追及してきた日南がどうして友崎のサポートをここまで懇意に続けてきたのか。

 

日南がここまで正しさを追い求める背景にはどのような過去が秘められているのか。

 

あまりにも歪な物の考え方を抱えて自分を守ってきた臆病な少女に対して、友崎が今後どのようなアプローチを見せていくのか、俄然期待が高まるばかりでした。

 

続刊、はよ頼む!!