かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

Q.もしかして異世界を救った英雄さんですか? A.違います、ただのパシリです。/弥生志郎

 

 

 評価:★★★★★

 

 

 

<感想>

メチャクチャ良かった!

 

異世界と勇者という組み合わせを見ると必ずと言っていいほど「異世界救ってやるぜ!」って流れになるのですが、この物語は単純にそうならない。そこの魅力が抜群だったなと。

 

主人公・織原識は異世界の危機を救った元英雄である。

 

異世界を救う英雄になるか、学園のパシリになるかと問われて後者を取る人がどれだけいるでしょう。華やかな主役か汚れ役のモブ。主人公の識は何を血迷ったのか後者でいる生活に満足をしているんですね。もうこの時点でびっくりなんですけど、物語を追うごとに識の気持ちも分かってきて、なんだか応援したくなっちゃうところがまた本作の面白いところかなと。

 

魔王をぶっ倒してほしいフィーナ。兵隊の指導をしてほしいシオン。魔力の強い英雄と子孫を残したいアーシェ。三者三様で異世界へとやって来てほしいと迫られるこの感じ。ラブコメ覇道を感じますね! このヒロインズの魅力はポンコツにあると思ってます。みんなそれぞれ異世界では名の知れた存在だというのに現代ではまるで役に立たないところに愛着を覚えてしまいました。

 

好きなキャラを一人と言われれば僕はやはりフィーナを選んでしまいます。健気に頑張るヒロインという種族が僕は大好きだというのもありますが、自分にはみんなにできることができないことを自覚していて潰れそうになるんだけど潰れない。その粘り強くも泥臭いフィーナの飾らない魅力が作中の展開のラストにも繋がっているのは読んでいて最高に気持ちがよかったです。

 

さてさて、続刊はおそらくないでしょう。お話としても綺麗にまとまっていますし、設定的にも単巻で終わらせた方が美しいように感じます。それにしても作者の弥生さんが前作とは打って変わってラブコメで攻めてきたのにはびっくりでした。心を描くことに力を持つ作家さんだとは分かった上で本作も読みましたが程よい温度感のコメディに王道とも呼べる物語展開は満足の出来でした。けれど、だからこそ卒なくまとまった印象があります。ですので、次作は前作のような心に刺さる切ない物語を読みたいなあという気持ちもありますね。