かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

さよなら、サイキック 2/清野静

 

 評価:★★★★★

 

恋と重力の物語、堂々完結!

 

<感想>

思春期特有の感情と設定がうまく共鳴した一作!!

 

控えめに言って最高だった!! 終わってしまうのが勿体ないほどに絶妙な青春の温度感を繊細に描き切った一作。 

 

長い入院生活に苦しめられたロンドの問題も無事に解消したログたちは秋風の漂う夏の終わりを迎えていた。ドルチェでのアルバイトは相変わらずで、そんな中でもロンドは中等部に編入し、ログたちの賑やかな二学期は幕を開けた。ずっと変わらない日々が続くと思っていた。しかし、能力者サークル『リア充ブレイカーズ』に新加入のメンバーが現れる。名を朱音儀チヅル。それをきっかけに元・能力者である少女・蒔田ヒルガオの告白により三人の心は揺れ動くことになる。変わらないモノなんてない。木佐谷樹の本音、ロンドの去就を受けてログの心は戸惑いの色に染まる。保身に走っても何も手に入らない。迷いに迷ってロンドの取った最後の選択は──

 

僕から言いたいのはどうして続かなかったのかということだけです! これだけの設定があったのならもっと物語は膨らんだでしょうし、事前に用意されていたと思うんですね。今回のような青春モノとしての色。一巻のような能力者モノとしての色。もっと掘り下げることができたと思うんです。本音としては、もう少しこの作品の世界観に浸っていたかった。

 

物語として動き出すのは朱音儀チヅルの登場から。日常にぽつんと新しい要素が加わるだけで一気に物語は動き始めました。チヅルの所作によって木佐谷樹の新鮮な表情が掘り出されたのは僕的にポイントが高かったですね。お前がヒロインや! と、そこではなくてチヅルの恩人であり元・能力者であるヒルガオさんとの邂逅から三人の停滞した関係性がゆっくり動き出すことになるんですけど、そこがまたいい。

 

「恋をして幸せになると、わたしたち能力者は力を失うの」

 

たった一言、その言葉が三人の間に一筋の風を吹き込むんですよね。経験者が語る言葉の説得力に納得してしまいそうになる反面、ログはだったら自分たちから能力が失くならないのは何故なのかという疑問に辿り着きます。

 

そこからの葛藤が特に印象的です。こんなに好きだって気持ちがあるのに。好きだって告白されたのに。心が揺さぶられているのに重力を操る能力は失うどころか弱まる気配すら見せてくれない。いやあ、青春ですよね。この辛気臭さややるせなさが僕は好物なのでうじうじと悩み続けるログには頑張れよ! とエールを送ってあげたくなりました。また、その凝り固まった考え方を単純に明快にほぐしてくれたチヅルは今回のMVPだと思います。この辺りには青春のイロハが詰まっていて大好きな流れでした。

 

物語の終盤も駆け足気味だという意見もあるとは思うのですが、恋する少年少女の生き急いでる感じって僕キライじゃないんですよね。迷ってもがいて悩んだ末に導き出した結論にみっともなく縋りついたり、気持ちだけが先走ってしまったり、後半はそういった青春特有の香りを感じて微笑ましい気持ちと一緒にほっこりとした読後感を得ることができました。

 

さてさて、次回はまた新作を書きたいとのことなので今から期待がむずむずとうごめいています。いやあ楽しみでなりません。久々の新シリーズでこれだけの熱量を放ったんですから、次作にも期待を寄せてしまうのも致し方ない。今度こそはもう少しシリーズとして長く続くことを祈りたいと思います。