かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。/大澤めぐみ

 

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

 

<感想>

キャラクターの魅せ方が抜群にうまい!!

 

オムニバス形式で紡ぐ青春群像劇!!

 

控えめに言ってめちゃくちゃ良かった。大澤めぐみさんと言えば前作の「おにぎりスタッバー」シリーズでそれはもうデビューして早々にラノベ読みの中でもちょっとしたどよめきが起こったほどに、独特の筆致で不思議な作品を生み出す人だということはわかった上で今回はまた一味違った毛色の作品を刊行されて引き出しが多いなあとそんな印象を抱かされました。

 

良い作家というのは作品のニュアンスが変わっても文章のそこかしこに作家の色を感じるものであると僕は思っていますが、いいですね。今回もページいっぱいに敷き詰められた文章は相変わらずなのにするすると頭の中に入り込んでくる独特な感覚は健在でした。気づいたら読むページを繰っている自分がいました。

 

まず触れたいのはキャラクターの描き方がすごく味が出ているということ。というのも本作は一人称で視点を変えることで短編が紡がれていきます。そうして視点が変更するごとに見ているものや感じているものががらりと変わって登場人物の見えていなかったところや隠れていた印象が姿を見せてくるんですね。その魅せ方が素晴らしく心地よいものだから読んでいて得した気分になるんですね。いい味出てる。

 

また、本作は「別れ」をテーマに繰り広げられる青春作品です。作中にも出てくる「春は名のみの」という春とは名ばかりでまだまだ寒いですねというエッセンスがぎゅぎゅっと詰まった物語に仕上がっていました。

 

青春時代に一度は考えたことのあるような、誰しもが経験できそうな、すぐ手が届きそうな場面を切り取ってお話に落とし込んであるので非常に共感のしやすい物語になっていたかなと思います。

 

生きていれば誰かに劣等感を抱きますし、負けたくない見てろよと考える瞬間もあって、自分の居場所は果たしてどこにあるのだろうと思ったり、一歩引いて達観した気になって一番近くのものを見落としてることもある。そんな日常の些細なトラウマを登場人物たちがそれぞれ克服して”これから”に臨む四編は寂しく切なくもあり、どこか温かくもある印象です。

 

作品を読んで面白いなと思ったのはテーマである「別れ」の扱いです。別れという単語を聞けば人はまず人と人との別れを連想すると思います。ただこの作品を読むとそういう意味だけではないよねという描かれ方をしていることがわかると思います。

 

冬が終わり春を迎えるということは終わりでもあり、同時に始まりでもある。それはあのエピローグがあったからこそ読み取れるメッセージなのかなとも感じました。近しい誰かともお別れしないといけないかもしれないけど、自分ともお別れしないといけないんですよね。かつての自分と。それが明日を生きるということ。その描き方がめちゃくちゃ良かった。たしかな余韻を感じさせるエピローグを一人でも多くの人に読んでもらいたいなあと思いました。

 

ちなみに僕はセリカがお気に入りです。お話としても、キャラクターとしてもぐっと胸に爪痕を残されました。