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弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで 1/紙木織々

 

弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで 1 (オーバーラップ文庫)

弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで 1 (オーバーラップ文庫)

  • 作者:紙木織々
  • 出版社/メーカー: オーバーラップ
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: Kindle
 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

ソシャゲ制作を通して描かれる登場人物の成長が良い!

ソーシャルゲームは遊ぶだけじゃない、作るものだ―。ある事情から命薫高校へと転校してきた白析解は、転校初日に弱小ソシャゲ部の部長・青井七花に出会う。廃部寸前のその部に所属するのは、ガチャ狂いのプログラマー・黄島文に、自分で描いたイラストの可愛さに失神するイラストレーター・黒羽絵瑠と変人ばかり!?元プランナーである解の入部によって部員不足は解決し廃部は免れた―と思いきや、『他校との対抗戦で結果を出さなければ廃部は覆せない』と生徒会に通告され―!?試されるのは今あるソシャゲをより面白くする『運営』の力。過去に培ったものと新たな仲間と共に、解は最高のソシャゲ作りに挑む!第6回オーバーラップ文庫大賞・金賞。

年始からとても良い青春モノに出逢えた。

ゲーム制作を描いた作品は数あれど、ここまで真っ向からソシャゲ制作に向かい合った作品は珍しいように思う。また、創作モノとしての側面が大きいことはその通りなのだけど、みんなでゲームを作るために各キャラクターの問題を解決していく青春モノとしての部分も王道ながら堅実に描かれていて、それがラストにもつながっている構成は読後感をとても爽やかにしていて良かった。

 

物語は主人公である解が名門ソシャゲ部を擁する学校を転校するところから始まる。理由は部内の不祥事だ。ソシャゲ開発において、ガチャ排出率のコントロールを故意に仕込もうとした後輩の罪を自分が被ることで学校を転出することになった経緯がある。事実を知らない人たちは彼のことを責めたし、未だに彼のトラウマになっているほどだ。

 

そんな彼だからこそ勿論、次の学校ではソシャゲ部などには入らないし、平穏な学校生活を送ろうとしていたところ、偶然にも巡り会ったのが転入先の学校の弱小ソシャゲ部の部長である青井七花。彼女は人当たりがよく、親切な少女なのだけれど、過去の経緯からソシャゲ部には入らない決断をする解。

 

けれど、突きつけられたのはソシャゲ部の現状。部としての存続するための部員数、活動実績。すべてが足りていないソシャゲ部が廃棄の危機に陥っていることを知る。また、生徒会長のソシャゲを馬鹿にした態度を目の当たりにして勢いで入部を宣言するところがまでが物語のプロローグだ。

 

この作品が面白いと思ったのはソシャゲ制作への向き合い方だ。ソシャゲにおいて大事なのは新規開発よりも『運営』することにあるという導入。活動実績をつくるために他校との対抗戦で勝つ必要が出来たソシャゲ部を解がプランナーとして導いていくのはスポコンのそれだ。

 

また、プランナーとしての仕事の部分で日常生活では聞き慣れない専門用語なども出てくるのだけど、それを解がやさしく解説する姿も印象的だ。さらっと読み飛ばしがちなところだけれど、読者も理解できるように身近なところに例えて話す様はプランナーとして至らないところがある七花に向けた説明というところでしっくりくるのと同時に、彼の人の良さも伺える。

 

ただやはり、作品として質が高いと感じたのはソシャゲ制作の内面を詳らかにして、ソシャゲプランナーの仕事の過程を丁寧に描くだけには留まらず、青春要素として各キャラクターが困っていることを解が解決することで絆を深めて終盤の展開につなげたところだと思う。

 

廃課金者で課金資金を集めるためにソシャゲ制作には協力できないというプログラマーの文を説得すること、七花とイラスト担当の絵瑠の間に横たわった問題を解決することで命薫高校ソシャゲ部の絆はたしかに深まった。

 

だからラストの展開には強い説得力が生まれたし、スポコンと呼んでもいいような熱い情動を呼び起こすカタルシスが生まれたのだと感じた。

 

主人公の成長というのはいつだって心を動かされる。それが戸惑いながらも身を置いた新しい環境で、同じ仲間たちの問題を解決して、一歩一歩前に進んだという過程を踏んでいるとひとしおだろう。

 

細かいところを突つけばご都合主義だと感じるところもあるかもしれないけれど、新人賞特有の熱くほとばしる情熱がこれだけの作品を生み出してくれたのは非常に喜ばしいことだし、純粋に続きが楽しみだと思う。