かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

語り部は悪魔と本を編む/川添枯美

 

語り部は悪魔と本を編む (ファミ通文庫)

語り部は悪魔と本を編む (ファミ通文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

 

 

<感想>

編集と作家のバディ物という新鮮な切り口!!

 

拾い上げ作家(デビュー未確約)の中村雄一は、ある日理想に限りなく近い女性の絵美瑠と出会い、交際することに! しかし、ある日絵美瑠が雄一の新たな担当編集であることが発覚!! 二人は動揺するも雄一のデビューに向け、恋人としてだけでなく、作家と編集者としても頑張っていこうと誓い合うが、二人の前にはデビューを阻む悪魔のような編集長が立ちはだかる。二人の恋と夢の行方は――!? 今"一番応援したい"出版業界の恋と戦い!

 

僕も素敵な編集者さんとマンガのような出会い方を遂げてラノベ作家になるべく二人三脚してえ!!

 

と、読む前はそう思うと思っていたんです。いや読んでみてそういう気持ちもありました。ただ怖いくらいにリアルに描かれた出版業界の闇と主人公に突きつけられる高い壁や思惑を目にすると手放しにラノベ作家になりたいと口にできるほど僕は子供ではないのだなとがくりと膝をついたそんな一作。

 

この作品で描かれているのは第一に作家と編集の在り方。現実をぼかしたりなんてしない生々しい事実なども突きつけながらそのやるせない現実が描かれているのはどこかヒヤヒヤします。

 

作家とはどうあるべきか。編集とはどうあるべきか。中には手厳しい意見もあって、きっと全てがその通りではないのかもしれないけれど、どれが真意であるのか、どれがギャグのつもりであるのか、そこを吟味しながら物語を読むとまた違った見え方がするのかなと思ったりもします。

 

また、そういったお仕事面も良かったのですが何と言っても恋の方面が大好きです。雄一と絵美瑠の関係性って出会い方こそロマンだったかもしれませんが仲良くなっていく過程は非常に生々しくてリアルさを感じずにはいられないんですよね。そのリアルとファンタジーのバランス感覚が良かったので二人の恋にはするすると入り込むことができたなあ、と。

 

そうやって恋でも仕事でも切磋琢磨、二人三脚をしている日々がみっちりと描かれているからこそラストの胸の熱くなる展開には説得力がありました。

 

キャラクターは絵美瑠が魅力的すぎると思います。非の打ちどころがない完璧なOLお姉さん。そりゃ雄一も惚れるわなと。雄一にリア充と称されるほどに垢抜けた彼女がその魅力にあぐらをかいているようなら僕も何も思わなかったのですが雄一と出逢うことで彼女にも変化が表れるんですね。この描写が地味でひっそりとしていて露骨じゃないからこそリアルに感じることができて個人的に非常にポイントが高い。お姉さんだからこそ雄一には容易には気づかれないようにしていたのかなとか深読みもできますし。

 

ただそんな絵美瑠と同じくらい気に入ったのが実は編集長だったりします。あの性格が捻じ曲がっていて意地悪で悪魔な男です。業界にいつづけた経験から人のことを手のひらの上で遊んで。