ようこそ、実力至上主義の教室へ 8/衣笠彰梧
お気に入り度:★★★★★
<感想>
ついに動き出した南雲が物語を揺らす!!
3学期開始と共に、高度育成高等学校の全生徒は山奥の校舎へと案内される。実施される特別試験の名称は『混合合宿』。男女別に1学年を6つのグループに分割。さらに2年、3年もグループに合流するという。最終的に所属する全生徒の平均点が高かった上位3つのグループにボーナスポイントが与えられる一方、最下位のグループ責任者は退学となるという。退学処分有りの特別試験に慄く一同。そしてグループの分け方は生徒に一任。敵同士だったはずのクラスと手を組むという感情的なもつれが波乱を生む!さらに新生徒会長の南雲、そしてあの高円寺にも動きがあるようで―!?
新章突入の導入の巻としては上々の立ち上がりでしょう。今後の展開の為に種を蒔きながら安定した面白さは提供してくれる。じわりじわりと忍び寄る南雲の影とリンクするような不気味な一冊になっていたかなと。
物語は三学年合同の合宿を焦点に当てながら始まります。陰でこそこそと動いてきた清隆からしてみればここまでオープンにクラス間ではなく学年間をまたいで顔を出すのは初めてのこと。新しく出てきた上級生たちが今後どのような形で関わってくるのか非常にワクワクするところ。
あと軽井沢がこの巻でもいいですね。ほんと良い温度感のヒロイン。言われなくても清隆のことを理解して動くさまを見ると気持ちが昂ぶってしまう。前巻でひと悶着あったこともあって清隆がいることで精神が保てている感覚が臭うのがこれまた良い。ラストの二人のやり取りとかも好き。軽井沢さんや、あなた助けるって言ってほしくてそれ言いましたよね~~~。
さて、物語全体として見るとやはり南雲という男に尽きます。この男の戦略はとても大胆かつ自由な印象を受けました。無邪気に懐に入り込んでから一気に食いちぎる、そんな印象。一生懸命積み上げてきたものも目的のためなら捨てることを厭わない。堀北兄への勝負についてもそのスタイルが全面に出ていたなあ、と。
また、同学年からすると高円寺も確かに人となりがこれまで以上に出ている巻にはなっていましたが龍園の動きも気になるところかなと。Aクラスである橋本とのやり取りが今後の物語のどこに絡んでくるのか気になりなる。
この橋本という男がまた読めない男だと感じた。感情的にならず、器用に、卒なく、うまく人との間を取り持つシーンが本編でも描かれていて腹の内で何を考えているのかわからないところが敵としては厄介な存在になってくるかなと。
あと女性側でも色々と動きがあってそちらにも目を向けないとなと思った。堀北と櫛田、この二人の結論の落としどころは果たしてあるのかってことや一之瀬と坂柳のチクチクと牽制の始まった関係性。この巻で何やら動きがあるかと思いきや次巻に持ち越しとなって痒い。身体が痒い。
と、まぁ、どの部分を切り出してもやはり次巻以降の布石や準備といった箇所が多く、ネタが多い割には拾わずに風呂敷を広げてきたなあというのが率直な感想。ただそれが期待に変わるほどに物語単体でも面白く、良い塩梅で物語の続きへの引きとなっているからこそ一冊だけ読んでも満足度が大きい。
最後の最後に不穏な一文があったけれどとにかく続きが気になる。南雲が一石を投じたことによってこう着状態だった学園にどのような変化が現れるのか。のんびり続刊を待ちたいと思う。