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クロス・コネクト あるいは垂水夕凪の入れ替わり完全ゲーム攻略/久追遥希

 

クロス・コネクト あるいは垂水夕凪の入れ替わり完全ゲーム攻略 (MF文庫J)

クロス・コネクト あるいは垂水夕凪の入れ替わり完全ゲーム攻略 (MF文庫J)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

女のために熱くなれる男は良い主人公の法則!!

 

陰キャで人間嫌い、だがかつて開催された『伝説の裏ゲーム』を全世界で唯一クリアした少年・垂水夕凪(たるみゆうなぎ)。平凡な高校生になった彼だったが、あるきっかけから「100人の凄腕プレイヤーが『姫』を殺す」新たな裏ゲームに強制的に招待された――『姫』として。しかも本来のゲーム内の『姫』である電脳神姫・春風(はるかぜ)は、夕凪と身体を入れ替えて現実世界へ。次々とトンデモな出来事を起こし、夕凪の人生(リアル)を激変させていく。
そしてゲーム内の『姫』の死=春風の死だと知った夕凪は、『約束された敗北』を覆すため、一つのミスも許されない究極のゲームクリアに挑む。
『入れ替わり』から始まる超本格ゲーム――「俺たちはこれから、このゲームを完膚なきまでに攻略する!」

 

新人賞らしく荒いところもあるのですが、それを覆い隠すくらい魅力にあふれた一冊になっていたかなと読み終わって強く感じました。

 

物語は主人公・垂水夕凪が「100人の凄腕プレイヤーが『姫』を殺すこと」を目的としたVRゲームの中に招待されるところから始まります。ゲーム内に入り込むだけならいざ知らず、それがまさかの淘汰されるべき姫の中だというから物語は最初からドキドキハラハラが止まりません。

 

見知らぬゲームの中にルールもわからないところから少しずつ情報を集めてゲームの概要を読者として一緒に体験していく流れは僕らも垂水夕凪の中に入り込んでいるような体験ができる構図になっていて面白いなあと思ったり。

 

また、この物語がそれだけにとどまらず面白く仕上がっているのは実際の姫である春風の存在かなと思います。姫の中に入っている夕凪とするなら、その間に春風の自我はどこにいくのでしょうか。

 

そう、夕凪の身体の中なんですね。今まで見たことのない景色や、経験したことのないものに触れることで色んな表情を見せる春風という少女は嫌味がなくストレートに良いヒロインだな、と。

 

そんな春風の等身大の魅力がわかった上で彼女の為に『姫』を殺させずにゲームクリアを目指すのは至極当たり前のことで、ここまでの流れが説得力もあってとてもグッとくるなぁと素直に思いました。

 

ただ気になる点としては、このVRゲームの内容というのが少し雑なところがあるのが難点なのかなと。素材はすごくいいんですけど稀代の天才が作ったゲームとしては杜撰なところがあったり、夕凪もゲームの天才プレイヤーという美味しい設定があるのにそこまでフル活用できる環境ではないというのは非常に惜しいところなのかもしれません。

 

天才の作った隙のないゲームをもう一人の天才がたった一人の女のために思いも寄らないアイデアで窮状をひっくり返し完全攻略する──もう少しそういった構成がかっちりとハマっていたらもっと評価できる作品になったかな、と。

 

ただそう欲を言いたくなるほどにこの物語には魅力が詰まっています。きっとゲームをするたびに僕らは「このヒロイン攻略できないのかよ」とか「このキャラが死ぬのは納得いかない」、そう思った経験があるはずです。

 

そんな絶対に攻略できないヒロイン、絶対に殺されてしまうキャラクターを自らの知見をもってして救ってしまう。シナリオにはない物語を自分んも手で作り上げる物語というのはある意味で新鮮に感じて続巻も今から非常に楽しみだと感じました。