かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

青春失格男と、ビタースイートキャット。/長友一馬

 

 お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

切なく淫らに後ろ向きな青春が胸を刺す!!

 

 

高校に入学した日。野田進は桜の木から落ちてきた清楚系女子、宮村花恋と運命的な出会いをし、誰もが羨む高校生活を手に入れる。だが進は、そんな普通の幸せに満足できなかった。「あなたは、青春不感症なんです」そこに、エキセントリックな孤高の天才児、西條理々が現れる。彼女の言葉で、進の日常は甘くきれいに溶けだした。「私の足を舐めろ、です。大人の味を教えてあげます」友人も、家族も断ち切って、世間から孤立する。進と理々だけの秘密の共犯関係―“楽園追放計画”が始まった。目を背け、逃げ続ける。ふたりだけの幸せを信じて。第30回ファンタジア大賞“審査員特別賞”受賞作。

 

まずい、これは非常にまずい。読み終ったあとの独特な余韻に浸ってしまっている。

青春とはキラキラ光り輝いているものだという偏見を否定する人はそうはいないだろうとは思うけど、自分が間違っているとわかっていても自分を変えることができなかったり、周りにただ流されるのにもどこか息苦しさを感じて、そんな板挟みのような窮屈感に悩む後ろ暗い少年少女の悩みだって立派な青春に成り得るんだってアッパーを食らってしまった。

 

青春というフレーズで想像できるものは沢山ある。その中でも友情と恋愛は特に挙がりやすい要素だと思う。そんな青春的要素に魅力を感じることができない野田進が孤高の存在である西條理々に出会うところから始まる青春ストーリー。

 

この作品はなんといってもアンモラルなフェチが特長の作品だと思う。もう主人公である進がヒロインの理々の身体の至るところを舐め回しながら快楽を覚えていく描写が生々しく紡がれる。それはもうドM主人公のそれだ。

 

ただ面白いのはそのフェチの使い方。本作ではフェチを『人には理解されないモノ』として最後まで描いている。人にはその人だけの幸せの在り方があって、それは他人が容易く理解できるものではない、だからといって否定してもいいわけではないでしょうと描かれている。

 

みんなが当然のように受け入れている『現実』にどこか馴染むことができない進と理々。そんな理不尽な同調圧力に二人きりで立ち向かうだけの物語ならきっと僕はここまで心を動かされなかったのではないかと思う。

 

二人の関係性が僕は大好きだ。自分のことを分かってくれる人などひとりもいないと思い続けてきた。その言葉は物語においても真実で、二人の間には最後まで諍いが絶えない。ただ諍いが絶えないのは向かい合ってる証拠なんだと気づくとガツンとやられる。

 

ここまでして本音でぶつかり合うのは分かりたいと思うからだ。反対に、分かってほしいと思うからだ。分かり合えないなりに傍にいる理由を二人は本編で探し続けてるんだ。その回りくどく素直じゃない二人の物語はこちらの胸をかき乱してくる。

 

そんな二人が、周りのことなど封殺して二人きりの世界で生きることを願うのはひとつの答えなんだなと思う。ただ同時に非情になりきれない二人の不器用さがまた胸を締めつける。どこまでも優しすぎるんだこの二人は。

 

結局のところ物語のオチとしては二人は最後まで割り切れない。自分のまわりの全てを切り捨てて二人だけの世界で生きていくこともできないし、真っ向から対峙して打ち勝つ勇気だってない。

 

どこまでも中途半端で、どこまでも情けない少年少女として徹底的に描かれている。そこに強烈なカタルシスが生まれていると僕は感じた。

 

きっと高校生なんてそんなもので、子供に戻ることを許されず、大人になりきることだって難しい何者にもなれない煮え切らない存在だ。そんなアンバランスな二人が青春に立ち向かうのではなくとことん逃げ続ける青春物語。一見するとそれは非難されるべきことなのかもしれない。逃げるのは悪いことなのだと多くは言うかもしれない。

 

でも、きっと彼らはそこに幸せを見出した。この切なく、歪な関係性に彼らなりの答えを出した。きっと外野から見れば歪んで見える彼らの関係性も、当人たちにとっては悪くない色をしているのではないかと強く思う。