かっぱの書棚

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陰キャになりたい陽乃森さん Step1/岬鷺宮

 

陰キャになりたい陽乃森さん Step1 (電撃文庫)

陰キャになりたい陽乃森さん Step1 (電撃文庫)

 

 お気に入り度:☆☆★★★

 

 

<感想>

陰キャと陽キャは相容れない!!

 

 

陰キャと陽キャ―俺たちに課せられた、透明な上下関係。お互い理解し合うことはできないし、そばにいても生まれるのは不幸だけ。だから俺は思っていたんだ。陰キャと陽キャは、別々に暮らすべきだと。なんなら、学校やら自治体レベルで、隔離して生きていくべきだと。なのに―そんな俺らが集う通称「陰キャ部」。陰キャだけの安息の地に、彼女はやってきた。陽キャ中の陽キャ、リア充中のリア充、陽乃森さん。しかも、彼女は…「わたしに陰キャを教えてよ!」なんて言いだし―え、ちょ、本気!?自分が言ってることの意味わかってる!?わかり合えない俺たちの、異文化激突青春ラブコメ!

 

面白いのは面白い、やりたいこともわかる。ただこれを岬先生が書く必要あったかなぁと読み終わったときに思ってしまいました。それくらいに凡庸で平凡で他の誰かが書いた学園カーストモノとの差別化に困ってしまうような印象を受けたというか。

 

物語は陽キャの中でも陽キャと称される陽乃森さんに目をつけられた陰キャ代表の譲が彼女に陰キャのなんたるかを教えることになるところから始まる。持つ者である陽キャ。持たざる者である陰キャ。本来交わるはずのない両者が同じ空間にいれば無事でいられるわけがなく──。

 

と、こんな感じで物語の大枠は陰キャになりたい陽キャのヒロインを主人公がどんどん陰キャへと仕込んでいく物語にはなるのですが、ここが少し僕好みではなかった。

 

岬先生の作品の魅力って何よりもまずキャラ造形のリアリティにあって、それに付随するように物語が息をするから読んでいて惹き込まれるし、たまらず余韻に浸りたくなるところにあると思います。

 

ただ本作は作風の路線変更もひとつの挑戦になっているのか物語もキャラクターもどちらかというと作り物だと割り切って大胆な設定で挑戦されています。この部分がちょっと引っかかったというか、しっくりこなかったというか、そんな風に個人的に感じたり。

 

というのも、陽キャの描き方が極端すぎることが一番に挙げられるかと。陰キャでもいいんだよ。ダメな自分を肯定するのが作品のひとつのテーマになっているとは思うんですけど、そのテーマを惨めにするくらいに陽キャ代表の陽乃森さんがハイスペックすぎる……。

 

なんでも出来て、なんでも持っていて、という彼女のカリスマ力は陰キャの正反対の存在としては真っ当なのかもしれないですが、やりすぎで陰キャ側に救いがなさすぎないですかと僕は疑問を持ってしまった。陽キャから見た陰キャ、陰キャから見た陽キャ、それぞれ外から見ていたものとは違うんだなぁと落とし込んでいたらまだ読後はすっきりしてたとは思うんですけどね。

 

「陰キャ」という存在に少し卑屈すぎるように感じます。

 

ただ陰キャでいる理由への落とし込みは岬先生らしいなあとは思いました。陽キャとか陰キャとかクラスカーストとか全部どうだっていい。自分が認められたいから、自分を認めてほしいから、そのために人はなりたい自分に、出来る歩幅で近づいていくんですよね。

 

お話としては綺麗にまとまっていたようですがナンバリングされているので続巻は出そうな流れですね。陽乃森さんの陰キャへの渇望はひとまず収まったはずですが物語は今後どう広がっていくんでしょう。気になるところかと思います。