かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

賭博師は祈らない/周藤蓮

 

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

 

 

<感想>

賭博師の青年と奴隷の少女の焦れったい触れ合いがたまらない!

 

舞台は18世紀末の英国。

 

 

ジャンル的にはいわゆる歴史フィクション? というものに当たるのでしょうか。実際の史実に則った物語に脚色を付け足したような舞台設定をもとに賭博師の青年の物語が進む。養父から教わった賭博の信念を大事に賭博師として日当を集めるだけの日々が冒頭から描かれており、彼の冷え切った生活が窺える。奴隷少女であるリーラがラザルスのもとにやって来ることでそんな氷漬けにされた日々もゆくっりと溶けていく様が胸をほっこりとさせてくれる。

 

最初こそ怯えきったリーラは喉を焼かれて声も出なければ感情を表に出すことだってなかった。けれど、ラザルスの厚意に徐々に表情を見せるようになってくれるんですよね。リーラは作品の全編を通して声を出しません。けれども、だからこそ、一挙手一投足の重みが増して、遠慮して気遣って、それでも誰よりもラザルスを慮る姿勢は控えめに言って最高です! リーラ好きだ!!

 

もう一つの見せ場であるギャンブル面に関してもきっちり作り込まれていて読ませる文章になっていたのはよかったなと思います。史実を背景に奥行きのある描写と賭け事が作り出す現実感が作品とマッチしていたなと感じます。ラストの賭博は心が震えます。

 

キャラクターに関しても秀逸な仕上がりとなっていました。リーラという奴隷少女は一人じゃ生きていけません。奴隷なんですから人に使い倒されて役が済めばポイされるのは目に見えてます。一方でラザルスも賭博師です。ろくな死に方はしないことがわかっているし今だって一日一日の蓄えを稼ぐ生活のくり返し。死ぬまでのカウントダウンと言っていいでしょう。そんなどこか欠けていて、足りない、ともすれば明日には死んでしまうかもしれない二人を殺さないために巡り合わせるという関係性だけで僕はお腹いっぱいです。最高に美しいなと。

 

ラザルスの作り込みもいいです。事なかれ主義の主人公などにも多い口癖の「どうでもいい」をラザルスは多用します。これって賭博師としての彼を形作るのに必要な要素なんですよね。なにも願わないことで賭博師として在りつづける。けれど、「どうでもよくない」存在がラザルスにも出来てしまう。それって突き詰めると賭博師でない彼の誕生を意味してるんですよね。明日死ぬかもしれない不安な賭博師である彼に他の可能性を示してくれたリーラ。つまり、これって生の物語なんですね。賭博師として生きなければいけない。自分で縛った枷を外すための一歩を踏み出す勇気をくれたのは奴隷少女。やっぱり最高です!

 

さてさて、電撃さんは相変わらず新人賞から軒並み完成度の高い作品が揃うからついついチェックしてしまいますよね。この作品も金賞なだけあって読み応え抜群! 歴史を再現した世界観にぐっとリアルを感じて賭博師と奴隷にほっこりする。物語の明暗をくっきり描き切れていて余韻もばっちり。お話は綺麗にまとまっているので単巻完結だと思いますがこれはオススメしたい一作。