かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

嫁エルフ。~前世と来世の幼なじみから同時にコクられた俺~/あさのハジメ

 

 評価:☆★★★★

 

 あさのハジメ、菊池政治コンビの新シリーズ、開幕!

 

<感想>

安心安定のあさのハジメ先生だ!

 

個性的なキャラクターに流行のトレンドをうまく調理した物語展開。読んでいてベテランであるが故の安定感の心地の良さはお見事!

 

──クエスタニア。

それは死者が転生する異世界の名前。舞台となるのは現世とクエスタニアの狭間に存在する冥界の学園だ。学園では転生してきたばかりの見習い転生者に異世界での生き方を習うことが義務づけられている。主人公であるルミナ・ナインフィールドは管理局の学園で教師をしていた。生徒はデレデレエルフのハイネと元・幼なじみの少女の千雨の二人だけ。何から何まで正反対の二人だったが、どうやら千雨はハイネの前世の姿であることが判明する。だというのに、千雨はエルフになんて生まれ変わらないときっぱり言い張る。二人は同一人物。つまり千雨がきちんと将来エルフに転生させるように仕向けるのがルミナの仕事となるのだが、運命と恋の行方や果たして──!?

 

流行のジャンルを噛み砕いて自分の型に落とし込むのが本当に巧いなあと思わされた。ラブコメ×異世界という手垢のついたネタを使っているのにルミナを異世界の管理者側に配置したこと、Wヒロインのバックボーンに前世と現世を加えてやって幼なじみと幼なじみのラブコメディに落とし込む斬新さはあさのハジメ先生らしくてすらすらと読むことができた。

 

内容としては、なんと言ってもテンポの良い掛け合いが気持ち良いところですね。あさの先生のキャラクター同士の生み出すコメディな空気はこちらも自然と心が弾んでくるので読んでいて楽しいですね。

 

ハイネと千雨という正反対のヒロインが実は同じ少女をオリジナルとしているという設定が何ともコメディ要素を強めていると思います。「エルフになんてならないってそれお前の未来の姿だから!」を始めとして、ルミナを中心にツッコミだらけの物語となっています。けれども、物語の核の部分はしっかりとしていて現状に至るまでの各々がどう考えていたのか。物語を進めていく大前提の部分は過去と現在を交えながらきっちり良い按配で構成されていたのは良かったです。

 

また、キャラクターに関しても一巻ながらそれぞれの性格やポイントがうまく掘り下げられていることもあって愛着がぐっと湧く構図になっていました。真面目な優等生なんだけどオタク趣味があってちょっと中二病な千雨。デレデレとルミナにべったりでありながらアホの娘のエルフ女神であるハイネ。この二人だけを切り取ってもキャラクターが非常に立っていてそれだけで物語への没入度はぐっと増している点がグッド!

 

ただ全体的に見るとベテラン作家のシリーズ物ということもあってか物語が大きく進まなかったところは少しマイナスポイントかなあ、と。見せ場もあるのですがもう一押し欲しかった感もありますし、これからが大事になってくるかなと。

 

さてさて、まだまだ物語は始まったばかり。果たして千雨はエルフに転生してくれるのか、揺れる恋心の結末はどうなるのか、主人公の正体は? 課題は山積みですが今後に期待が持てる始まりとしては良い滑り出しだと思いました。