かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。/天沢夏月

 

 評価:☆★★★★

 

 

 

<感想>

青春作品!!

 

最愛の彼女を失った渡成吾は四年の月日を経ても未だ立ち直ることができていなかった。葵透子、それがかつての恋人の名前。割り切るために故郷を離れたはずなのに独りになると、まっすぐな言葉やふとした仕草、彼女の臭いを思い出してしまう毎日。友人からの誘いにより久々に帰った地元で成吾は今まで遠ざけていた透子の家に訪れる。そこで見つけたのは一冊のノート。あの日まで二人でやり取りしていた交換日記だった。読み返していると、日記の空白に新しい文字が書き綴られていった。その文字はよく見たことのある形をしていて──

 

青春+SF作品は夏の終わりにちょっと切ない物語を紡いでくれるから好きです。今回も結末は分かっているのに丁寧に描かれる過程も含めてじーんとくる一作。天沢さんの書く青春作品は良いですねえ。

 

この作品の目玉は『交換日記』です。相手に気持ちを伝えるツールとして使われる小道具としては珍しいものだという点がまずオシャレだなと感じたのと、二人の思い出の品に二人を再度結びつけるためのSF設定を盛り込んだのは最高に美しいと思います! ザ・青春っぽさも出ていてグッジョブと思わざるを得ません。交換日記は言わば二人の歴史なんですよね。あの時はなにを考えていたのか。どうやって仲良くなったのか。すべて記されている。二人の確かな結末の象徴に、『もしも』のSF要素を上乗せする手は卑怯ですよもう!

 

そして二人の距離感も実に良い味を出した作品だったなあと印象に残っています。事情を知らないからこそ等身大の恋する男子として接してくれる成吾。気を遣うことなく接することができる透子。徹底して二人の間にある物を中心に二人が描かれているのが気持ち良かったです。また、二人の心が接近したきっかけをうまく恋の比喩と引っ掛けていたのも巧いなあと感じさせられました。

 

キャラ的にはやっぱり透子が魅力的でしたね。病弱ヒロインの心の強さってどうしてこんなにも惹かれてしまうのか。おばあちゃんである夏澄さんの言葉もとても印象的でした。今の一瞬を後悔しないように生きる透子は何よりも美しい。

 

いやあ、天沢さんの青春作品は登場人物の心を丁寧に描き出すので感情移入しやすくて良いですね。是非ともこの路線をひた走って定期的に質の高い青春モノを描き続けていってほしい。