かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係 2/久遠侑

 

近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係2 (ファミ通文庫)

近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係2 (ファミ通文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

久遠先生の描くリアルな青春ストーリー、堂々完結! 

 

<感想>

青春って恋愛って距離感が難しいと感じさせられる一作!

 

雨宿りの中、唐突に由梨子にキスされた。今までずっと幼なじみとして付き合ってきた彼女から向けられた異性としての好意に戸惑う健一。また、一緒に暮らし始めた親戚の里奈に対して抱く感情にも答えが出せないままでいた。近すぎる距離にいる彼女。今まで近すぎる距離にいた彼女。移ろいゆく季節の中で、変わっていくもの、変わらないもの、すべてを受け入れて健一が選ぶのは──

 

 

十七歳って特別な年齢なんだと僕は思うことがあります。というのも、十七歳って響きがどこか大人になるための一歩を踏み出したってイメージ湧きませんか? 僕はかつて自分が十七歳だったころからそんな風に考えることがあって、高校二年生という可能性に充ち満ちている期間にちょっとだけ大人になったような気がしたりもしました。

 

でも、十七歳になっただけで何かが変わるわけでもなく、僕は僕なんですよね。大人に何てなっていない。本当に大切なモノが何であるのかにも気づかなかったり、掛け替えのないモノを見落としていたりするんですね、これが。

 

健一も全く同じでした。本当に大事なものは近くにあったはずなのに、それが当たり前すぎて気づかない。そういった日常の中で見落としがちなものを描きたかったからこそ緻密に繊細に過剰ともいえるくらいに本作はリアリティに寄り添った描写がされていたのだと今では納得しています。

 

恋はドラマチックでなくてはいけない、などというルールはありません。むしろ日常で人が恋をするときは何気ない仕草や行動の積み重ねの結果だったりすことが多いです。そこまで綿密に意図を汲み取って敢えて平坦で日常的なストーリーラインを以てして物語を回すというのは一周回って新しいなと感じさせられました。

 

確かに物語には盛り上がりが少なくエンターテイメントとしての側面は弱いのかもしれませんが、青春作品特有の瑞々しい描写に、普段は目にも留めないところまで行き届いた情景描写、特別な何かがないからこそ描くことのできる絶妙な登場人物の関係性やその変化が存分に息をできたのだろうなと思います。

 

そういう意味では久遠侑さんはライトノベルというよりは一般文芸向きの作家さんなのかもしれませんね。揺れ動く思春期の心理。そこにいる人の所作、そこにある者の必然性など。しっとりと描くからこそ生まれる説得力は久遠先生の強みだと思います。今後もこういった丁寧で繊細に描かれる作り物であるが故のリアリティな物語が読みたいと思わせてくれる一作でした。