かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

ソシャゲライター クオリアちゃん -恋とシナリオと報酬を-/下村健

 

 評価:☆★★★★

 

 チュンクロの下村さんの衝撃のデビュー作!

 

<感想>

これソシャゲライターになるためのハウツー本だ!

 

物語としても純粋に楽しめたのですが、物語の至る所に物書きとして大事な『いろは』が仕込まれていて、はっきり言ってここまで書いちゃっていいんですか下村先生ってくらい贅沢な一冊でした!

 

主人公は大学の脚本科という特殊な学部に通う大学生・松平。過去のトラウマから自分が普通すぎることをコンプレックスに思っていた平は1万を超える作品の名セリフを記憶していた。そんな平には実は好きな人がいる。シナリオライターとして活動している先輩・川口久月麗だ。自分の頼れるものなど『1万作品の名セリフ』だけなので、その膨大なセリフの中から飛び切りの言葉でクララ先輩に告白する。告白の言葉に感銘を受けたクララは平のそのセンスを買ってソーシャルゲームシナリオライターの助手をやってみないかと誘いの言葉を返す。こうして平はクララのシナリオ業務を手伝うことになるのだが──

 

時代には流行り廃りというものがあって、創作モノというのは現在のトレンドのひとつなのだと思います。ここ最近の『創作』を題材にした作品だけでも何タイトルも挙がるくらいには需要のあるジャンルになっていると思います。

 

その創作の中でもニッチな題材であるソーシャルゲームシナリオライターをピックアップした物語。ここが新鮮で面白かった。というのも、ソシャゲってある意味では小説よりも家庭用ゲームよりもずっと身近にあるのに、物語として取り上げられることが少なくって絶妙な隙間を突いたなあと感心しました。しかも他でもないチェンクロの下村さんというところがまたw

 

で、何が凄いって中身が凄い! エンターテイメントとして成立しているのに本を開けば広がっているのはソーシャルゲームのシナリオという少ない分量でどう物語を読ませるのか、どうキャラクターを魅せるのか、小説でも家庭用ゲームでもないからこそ実現できる計算された感動までの道筋が余すことなく描かれている。この贅沢っぷりに僕は打ちのめされましたね。物書き志望の方には是非とも読んでほしい一作だ。

 

くわえて、お話としても面白いからずるいんですよね! 勿論ハウツー的なポジションでソシャゲのシナリオ入門本としての魅力も充分にあるのですが、普通すぎて特に取り柄のない主人公がたった一つの武器『一万作品から拾い上げたセリフ』を駆使してシナリオライターである先輩を助ける。この構図が最高に熱いなって思いました。

 

『普通すぎる自分』を脱却するために武器を作って、好きな女のために不格好だろうとシナリオを書きあげる。そんな男らしい平のことを誰が『普通』だなんて言えるんですかねホント!

 

また本作は多彩なキャラクターも魅力です。クララ先輩の家族が複数出てくるのですが、どの子も個性豊かで川口家の空気の良さを各々引き立てていたなあと感じました。ちなみに僕的にポイントが高いのはリーヤ! 家族のことが大切で、大好きで、だからこそコウにきつく当たることもあるんだけど根は良い子だってわかってしまうところには思わず胸がきゅんとします! で、リーヤくんが男の子なのか女の子なのか話はそこからだ(だが、男だ)!

 

ただひとつ勿体ないなぁと思ったのが登場人物の異能力設定です。クララ先輩の家族はそれぞれ特殊能力を保持しているのですが、それが物語を回すための都合の良いツールとなってしまった印象があります。無理にねじ込まなくても『お仕事モノ』として成立させることが出来たことも考えると、その辺りのフォローはあった方が作品への没入感は増したような気がしました。じゅうぶん面白くはあるんですけどね!

 

さてさて、良い引きで終わってしまったこともあって続刊はあるでしょう。今後どういった物語展開になるか楽しみではありますが、異能にはそこまでフィーチャーせずに普通に「お仕事モノ」としての面白さを確立するようなシリーズになっていってほしいと思いますね。