スパイ教室01 《花園》のリリィ/竹町
お気に入り度:★★★★★
<感想>
凄腕スパイと落ちこぼれたちの結んだ新たな絆の形!!
陽炎パレス・共同生活のルール。一つ、七人で協力して生活すること。一つ、外出時は本気で遊ぶこと。一つ、あらゆる手段でもって僕を倒すこと。―各国がスパイによる、影の戦争を繰り広げる世界。任務成功率100%、しかし性格に難ありの凄腕スパイ・クラウスは、死亡率九割を超える“不可能任務”専門機関―灯―を創設する。しかし、選出されたメンバーは実践経験のない七人の少女たち。毒殺、トラップ、色仕掛け―任務達成のため、少女たちに残された唯一の手段は、クラウスに騙し合いで打ち勝つことだった!?一対七のスパイ心理戦!第32回ファンタジア大賞“大賞”作の痛快スパイファンタジー!!
ファンタジア文庫の新人賞大賞受賞作が堂々登場!
強気な売り方も納得できる内容に満足の一言。
物語はスパイ養成学校で落ちこぼれと称された少女たちが最強のスパイとともに、一度失敗したことにより難易度が最高に跳ね上がった──不可能任務に挑むというもの。
もちろん落ちこぼれが挑戦するには余りに敷居が高い。しかも期限は一か月。めちゃくちゃすぎる任務を遂行するにあたって、凄腕スパイであるクラウスから手ほどきを受けるはずがクラウスは天才肌のそれで、物を教えることがド級にヘタクソだった。。。
そんな導入から始まる物語。素直に面白かった。ファンタジア文庫の最近の新人賞の系譜でもある『教育』モノと呼んでもいい本作は教える側のクラウスが人にスパイとしての技を教えるのがヘタクソというのがひとつのポイントになっているなあと感じました。
だからこそ、『最強』と呼んでいい自分を少女たちが手を取り合って、本気で倒すつもりで向かってくる。それをいなすことで少女たちの信頼関係であったり、チームワークを鍛えて、それが本格的な実戦訓練につながっているという構図は巧い。
何よりも前半と後半のバランスが良いなと感じました。前半では凄腕スパイであるクラウスを倒すことを目標に掲げて、物語が展開されます。この空気感がなかなかにコミカルなんですよね。本気でクラウスを打ち倒そうとしているのにどこか微笑ましい雰囲気が溢れてる。それは言うなれば、家族の席のそれに近い。
また、後半では不可能任務への挑戦が描かれます。前半部分で築いてきた少女たちのチームワークがしっかりと描かれており、コミカルな空気は端々には残しながらも、読み応えのある任務遂行の物語が綴られているのが印象的でした。
それにしても、クラウスの師匠であるギードは良いですよね。師匠と弟子の関係性みたいなものが僕は大好きで、それが例え敵対していたのだとしても、ついついその熱量に惹かれてしまいます。
また、本作ではクラウスが不可能任務に立ち向かう背景がいい。以前、同じ任務に向かって命を落とした"焔"というチームは彼の確かな居場所でした。身寄りのない、行く当てのない彼が、唯一帰ることの許された最強のスパイチーム。
そんな彼の帰る場所でもあった"焔"を潰したのは他でもない同じチームに属したはずのギード。きっと並々ならない想いがあったはず。どうしてと問いかけたかった。ふざけるなと憤りたかった。それでもすべてが終わった後にクラウスは自分のことを裏切ったギードに手を差し出すんですよね。一緒に帰ろうと。
謎の存在"蛇"によってギードは抹殺されてしまいますが、あのシーンは本作における僕の印象に残ったシーンのひとつです。
あと、もう一個挙げておくのならば、個人的に先生の言葉を生徒が引用するみたいな展開が大好きな性癖があったりします。本作ではそれを拝むことができて感無量だったりしました。
「──このお遊びには、いつまで付き合えばいいんです?」
リリィが口にしたこのセリフですね!
目には見えない絆、言葉にしなくても伝わる信頼がセリフひとつでじんわりと広がっていくこの感覚が僕はたまらなく好きです。
物語の締め方としても約束通りではあるものの大満足。"焔"というかつての居場所を失い心に穴をあけてしまったクラウスが、スパイ養成学校の落ちこぼれたちと新たな絆を結ぶことができた。"灯"がかつての"焔"のように燃え上がるにはきっとまだまだ時間がかかるのでしょうけど、今後の展開も含めて大きな期待を寄せることができると強く思います。