かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

魔迷宮のセイレーンが歌いません/関根パン

 

 評価:☆★★★★

 

『キュージツカ!』の関根パンさんが贈るラジオ系ダンジョンコメディ開幕! 

 

<ネタバレ>

ダンジョンを魔物サイドから見た質の高いコメディ作品!

 

セイレーンのみんながゆるふわにお喋りして悪魔が内心でツッコミをいれる物語。ダンジョン物といえば人が魔物とぶつかって熱いイメージが真っ先に浮かびますが、魔物視点に立って日常パートをコメディとして徹底的に描くのは新鮮で面白いなあと思いました。

 

舞台は『魔界』へと通じる広大な洞窟──魔迷宮。

その奥底には、かつて人の世を襲った魔物の王の卵が眠っており、同じ惨劇がくり返されぬよう人はその卵を求めて毎日のように洞窟へと潜り込んでいた。

物語は魔界サイドに住む上級悪魔ヴァルクがとある理由から左遷されてセイレーン魔歌隊の隊長にされてしまうところから始まります。セイレーンは自分の歌声をダンジョン内に流し込むことによって人間の行動を制限することができる種族。ヴァルクはそんなセイレーンをまとめる役を受けることになりました。左遷に納得のいかないヴァルクは元の地位まで這い上がることを決意し、セイレーン魔歌隊で成功するために今は廃れてしまった『緊縛の歌』を復活させようとして──

 

すっと頭に入ってくるこの感じ最高だなと思います。

歌わないセイレーンが魔歌の代わりにお喋りする流れはラジオのそれで、一人一人のキャラクターが個性的なこともあってただ喋ってるだけでもどこか微笑ましく思えるというかヴァルク視点で物語を見るとお父さんみたいな気にさせられるというかw

 

と、コメディパートが目立つ本作ではありますが中身は王道な構成となっています。結果こそが全て。ぜったいに這いずり上がってやるというヴァルクが、段々とセイレーンの少女たちに気持ちを揺さぶられ、愛着がわいていく様なんかはベタではあるのですが、こう心が温かくなる感覚を味わいました。

 

キャラクターはみんな特徴的で好印象だったのですが、中でもハ二ちゃんが最高でしたね!「意味のないことはしない」という考え方はある意味でヴァルクと共通しているんですよね。だからこそお互いわかる気持ちもあって、わからない気持ちもある。歌えないけど言葉はあって、他でもないその言葉を交わすことでヴァルクに少しだけ歩み寄ったハニに僕はもうニヤニヤでした。

 

今後、この第八班がどのような物語を経て、どう成長していくのか気になるところです。お話としても読み口がやさしく、さらさらと読めてしまうので続刊にも期待したいところです。