かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

29とJK 8 ~そして社畜は今日も働く~/裕時 悠示

 

29とJK8 ~そして社畜は今日も働く~ (GA文庫)
 

 お気に入り度:★★★★★

 

<感想>

社畜とJKが織りなすお仕事ラブコメ完結!!

「これだけは言っておきます。社畜にプライドはないが、魂はある」
尊敬していた編集者、御旗と訣別し、自社のサイトでお仕事小説の連載を発表した槍羽。執筆を担当の花恋は、取材のため、変装してコールセンターの現場で働くことに。

「――この程度で済むと思うなよ」
御旗の影響力により、様々な妨害を受ける槍羽だったが、思わぬ周囲の助けもあり、準備を進めていく。

一方、御旗の会社より、損害賠償に関しての連絡が届き、鋭二と御旗は、直接対決することとなった――。
「人は、いつだって、自分が今いる場所を踏みしめるしかない」
〝禁断の〟年の差ラブコメ第8弾!

完結が寂しいと思ったのは僕だけではないでしょう。既存シリーズの作品のなかでも大好きな作品だっただけにつらい気持ちもありますが社畜物語の完結に拍手を送りたい。

 

シリーズ開始こそ流行りの年の差ラブコメなんでしょ? と高をくくっていた僕ではありますが、立ちはだかる壁に立ち向かう雄々しい物語であったり、大人になってできるようになったこととできなくなったことであったり、その余りの熱量に虜にされた一人でした。

 

最後までぶれずにポップなラブコメに振るのではなくて、夢という呪縛から解き放たれた大人の物語として描き切ったのは最高のラストだと感じました。

 

シリーズ全体のことを話し始めればキリがないので本巻の話をしますが、僕は御旗廉太郎のことをどうしても嫌いになれない。確かにイヤな奴だ。汚いことだってするし、誠実じゃないように受け取れたりもする。

 

けれど、それは彼があまりに純粋すぎたからなんだろうと読み終わった今では思う。こんなに面白い物語が売れないのはおかしい。出版不況の今日だからこそ、読者の僕らだって度々思うことだ。人気低迷、打ち切り、絶版。僕らの大好きな作品が今日も多くの人に掘り当ててもらえずに眠る毎日だ。

 

だったら誠心誠意、真心を込めて、それも自身の子供かのように育てた間違いなく面白いはずの作品が売れなかったとき、作者や編集者の胸にわだかまる感情への名前の付け方を僕は知らない。

「これさ、本当に良い作品なんだよ。いい本なんだ。面白いんだ、本当に。名作。ぼくのなかでは、本当にこれが一番……」

御旗の最後の言葉が今も僕の中に響いています。きっと心の根っこではそのかつてのトラウマだけが彼を苦しみ続けていたのだなと思います。

 

ネコオ先生と沙樹の関係性もシリーズを追いかけ続けてきた身からすると、とても感慨深いものがあるなと感じます。御旗が苦しんだように、二人だって苦しみ続けて、ようやく悪夢のような呪縛から解放されたのだろうなと胸が温かくなりました。

 

合同説明会での槍羽の言葉もとても心に残りました。確かに人が生きていく限り、来るかもしれない明日を追いかけてしまうし、昨日に囚われてしまうこともある。けれど、生きているのは"今日"であることに違いなくて。

 

明日こそはと願い続けただけの昨日の自分を乗り越えて、新しく手に入れた物を大事にしていこうという彼の心意気は、自分はあまり動かずに周りの人を信頼して任せた最終巻の彼の姿から如実に読み取ることができます。

 

つらいがどうした。きついがどうした。それでも、今日も仕事に行くんだよ!

 

僕も働くのは決して好きではありません。辞めてやりたいと何度も思ったし、隕石が会社だけを潰してくれないかなと物騒なことを思ったことだってあります。それでも、今日だけはそれでも、ちょっとだけ仕事をしてもいいのかなって、そんな気持ちになりました。