消えてください/葦舟ナツ
お気に入り度:☆★★★★
<感想>
これは「ひきこもりの弟だった」のアンサーだ
孤独な少年と、幽霊の少女――二人は恋に落ちるごと、別れに一歩近づく。
『私を消してくれませんか』
ある雨の日、僕は橋の上で幽霊に出会った。サキと名乗る美しい彼女は、自分の名前以外何も覚えていないらしい。
・一日一時間。
・『またね』は言わない。
二つのルールを決めた僕らは、サキを消すために日々を共に過ごしていく。父しかいない静かな家、くだらない学校、大人びていく幼馴染。全てが息苦しかった高一の夏、幽霊の隣だけが僕の居場所になっていって……。
ねえ、サキ。僕は君に恋するごとに“さよなら”の意味を知ったよ。
読み終ったときため息を吐いてしまった。
前作である「ひきこもりの弟だった」を非常に読み返したくなる一冊。
物語としては主人公である春人が、ある雨の日に自分の名前以外を何も覚えていない幽霊の少女サキと出会うところから始まる。変わることを怖れて、変わっていく周囲に馴染めなくて心細かった春人がサキとのたった一時間を拠り所に彼女の成仏するための方法を探すお話。
二人が少しずつ距離を縮めていくシーンを始めとして、印象に残ったシーンは沢山あれど、忘れられないところをひとつだけ。
最後の二人のシーン。そこが大好きだ。
「……たとえば好きな人ができたとして」から始まる春人のセリフは「ひきこもりの弟だった」の結末そのものだ。前作のラストにたまらなく感情を揺さぶられた僕もいれば、そのまま幸せになれば良かったじゃないかと思う人だっていて。
幸せを与えてくれた人がいて、その人のことが好きだと思って、それだけじゃ満たされなくて、それだけじゃどこか足りない気がして、だから別々の道を辿る人たちだっていること。
春人とサキのやり取りから色んな感情を読み取ることができて、この言葉にならない感情を呼び起こしてくれてありがとうが止まらない。
最後に「またね」と口にする二人。
なんてことない言葉であるはずなのに余韻が今も胸を離れてくれない。