ワキヤくんの主役理論 2/涼暮皐
お気に入り度:☆★★★★
<感想>
誰だってなりたい自分になりたいって思ってる
青春公園での一件の後、俺はこれまで通り、青春を目一杯楽しんでいた。学校で勝司たちと他愛も無い話をしたり、駅前にやたら良い雰囲気のおでん屋台を見つけて、店主の少女・赤垣此香と友人になってみたり。―しかし、日常は唐突に破られた。「我喜屋先輩は姉が好みではありませんか?」突如やってきた、叶の弟・望くん。彼の目的が全く解らないまま、何故か目の前でさなかとデートをすることに。しかし、さなかも何か思うところがあるようで…?主役男と脇役女によるおかしな青春勝負、第2弾。今回はさなかが主役…!?
未那の提唱した主役理論。叶の提唱した脇役哲学。今回はそこにもうまく絡ませつつ、さなかちゃんに焦点を当てた良い青春物語となっていました。
物語は駅前で見つけたおでん屋を切り盛りする少女・赤垣此香と仲良くなるところから始まる。ギャルなのにおでんというアンバランスな組み合わせに浸る時間もなく、未那を予想外の出来事が襲う。同居人・叶の実の弟・望が部屋に居座っていたのだ。なぜか叶のことを彼女にさせたがる望から逃れるためにさなかが恋人だと言うのだが──
お話のあらましとしてはこんな感じ。新キャラを畳みかけるように物語の入り口で二人もぶっこんでくる内容に驚かされた二巻になっていますが、この二人がどっちも良いキャラしてる!
此香はギャルの風貌をしているのにしっかりおでん屋を回しているところのギャップにくすりときますし、未那とも叶とも良い温度感で掛け合いを繰り広げているので読んでいて気持ち良いというか。
望くんは爆弾になりそうな雰囲気が漂っています。未那の知らない叶も知っていること、ただの姉弟だけでは留まらなさそうな香りが今の段階からしていて今後の展開も楽しみだなと。
ただ今回の主役はさなかちゃん。未那のように主役を目指す努力ができるわけでもなく、叶のように徹底した脇役を演じることもできず、此香のように料理人になりたいとおでん屋を回すような気概だってない。自分には何もないと落ち込んでしまうような女の子。
たださなかの魅力は落ち込みっぱなしではないというところ。変わりたいって気持ちがあって、何とかしないとって気持ちもあって、その感情が空回りして一人でおかしな芸を披露してしまうこともあって、むしろそういうところこそがさなかのすごい可愛いところで、それってもう十分な個性だよなと思ったりもしました。
努力できるのは才能だという言葉がありますが僕はそれに大いに賛同します。目標設定ってぶっちゃけ誰でもできるんですね。やりたいことの一つや二つくらい簡単に見つけられると思います、人って。
ただ始める動機、続ける動機の二つを見つけるのって簡単じゃないんだと思います。けれど努力し続けられるのは最低でも双方を見つけて自分なりに落とし込まないとできない。その見えているのに手の届かないモノにさなかはずっと振り回されていたんだなって思うとぐっと親近感が湧いてくるな、と。
プロローグにあるエピソードがありふれているからこそ刺さりました。自分にはできないことをさらっと偽善者ぶらずにやってのける未那。主役理論を掲げる彼を主役<ヒーロー>だと認めるのはきっと彼だけじゃない、そんな風に思うシリーズ2巻でした。