かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

問一、永遠の愛を証明せよ。ヒロイン補正はないものとする。/かつび圭尚

 

お気に入り度:★★★★★

 

 

<感想>

これはきっと、誰かを永遠に愛することを誓うための物語だ!!

 

その日、僕は告白するつもりだった。何度も僕に告白してくれた両片想いの後輩・朱鷺羽凪沙に。
屋上で二人きり、想いを告げてついに恋人同士になる――はずが、僕らは恋と愛を巡るゲーム「コクハクカルテット」に巻き込まれてしまう。
ゲーム中に恋愛が成就すれば「永遠の愛」が魔法の力で約束されるが、成就しない恋は「はじめから」なかったことに。つまり、恋をする前の関係に戻ってしまうのだ。
「僕は永遠なんて保証抜きに、好きな人と愛し合う過程を大事にしたい」
「永遠の愛が手に入らないなら、この気持ちを綺麗さっぱり忘れたいです」
そんな究極の選択を前に、僕はこのゲームを否定するために動き始める――。

 

──皆さんは面倒臭いキャラクターが好きでしょうか?

それは主人公が拗らせまくって面倒くさくなっていることもあれば、ヒロインが厄介な性格をしていることで面倒くさくなってるパターンなど、多岐に渡るかと思います。けれど、僕はそういう一口では切って捨てることのできない人間臭い登場人物が大好きです。

 

第17回MF文庫Jライトノベル新人賞《審査員特別賞》を受賞した本作は、そんな面倒くさい主人公である白瀬傑が『永遠の愛』に翻弄される物語に仕上がっていました。

 

どうも、カッパです。もう前述したとおりです。今回のMFの新人賞の中でも一番気に入った作品だったということもあって記事にしようと思った次第です。僕と似たような面倒くさいキャラクター性に抵抗感がない人には自信を持ってオススメできるのではないかと!

 

物語は主人公である白瀬傑《しらせすぐる》が何度もアプローチをかけてくる元カノの妹である朱鷺羽凪沙《ときわなぎさ》に少しずつ惹かれてゆくシーンから始まります。彼女のことが好きなのに、好意があるのに応えられないのは元カノへの未練がまだ心のどこかにあったから。

 

開幕早々に傑の良い意味での律儀な側面であったり、面倒臭さの一端が見え隠れしているわけですが、この選択が凪沙とのボタンの掛け違いを生じさせるわけですね。

 

そうして友達以上恋人未満の関係性を続けていく中で二人が巻き込まれたのは恋愛ゲーム「コクハクカルテット」。その内容はゲーム内で恋愛が成就すれば「永遠の愛」が贈られ、未来永劫二人は仲良く恋人同士でいられるというもの。しかし、その代償として恋が成就しなかったときは記憶が抹消され恋をする前の関係性に戻るということ。つまり自身に芽生えた恋慕すらも強奪されるという究極の選択でした。

 

煮え切らない関係性を強引に前に進ませるためのゲームだと真っ先に感じました。参加者は総計で四名いるのですが、その四名の中で二人が両想いとなって結ばれることがゲームクリアの条件。

 

僕がこの作品を気に入ったのは純然とした作品の魅力は勿論のこと、その絶妙なジャンルの立ち位置にあります。というのも、ジャンルとしてはラブコメをベースにそこにゲーム性を加えたものというシンプルな表現をすることができます。

 

ブコメといえば現代の流行の只中にあるジャンルになっていて、MF文庫というレーベルの中で一つの市民権を得ているのはゲーム物という認識です。「ノゲノラ」とか「ライアー・ライアー」とか「神は遊戯に飢えている。」とかがその代表的なタイトルになるんですかね。

 

その中で流行のラブコメを他でもないMFが送り出すことに何かしらの価値を見出せるとしたら、それは「ラブコメ」と「ゲーム」という二つの要素の融合だと思うんですね。これが良い品質で書けるのであればMF文庫として発売するだけの大きな意味があると思うんです。

 

この作品では、そのジャンルの掛け算がうまく噛み合っていると感じたからこそああ僕は売れてほしいなと純粋に感じました。ラブコメをベースにしながらも二人がくっつかない理由の解消を自分たちの武器である「ゲーム」に託す構図なんですよね。新人賞として発売されるに相応しい作品だなって。

 

で、肝心の物語なんですけど傑の考え方が本当に面倒くさいんですよね。しかもそれが結構赤裸々に文章として書き表されているタイプの作品なので、そこで引っ掛かりを覚えてしまったら冷めてしまうという気持ちも分からなくない。

 

傑は「永遠の愛は存在しない。あるのは永遠に愛したという結果だけ」を信条にする、結果よりも過程を重視する人間です。作中でも頻出する思想なので、これが物語のテーマとして重要になってくるのは言わずもがなです。

 

反対に、ヒロインである凪沙は「永遠の愛」を求めた少女です。誰かのことを好きだという感情は一度抱いたのならずっと抱いていたい。それは傑へのアプローチが成功しない彼女の焦燥にも似た感情なのではないかと想像できます。それに彼女がそこまでして強く願ったのは傑の元カノであり、自身の姉である美凪との破局を知っているからこそというバックボーンもあるでしょう。

 

言ってしまえばこの二人の意地の張り合いの物語なんですよね。

 

また、面白いのはゲームの設定がうまくストーリーに関与していることです。ゲーム参加者には固有能力が与えられており、その力を駆使しながら相手と恋仲になるというのが大雑把なゲームの攻略法になります。

 

個人が有した能力で参加者との駆け引きに興じながら進行していくストーリーは、ラブコメを読みながらも新鮮な後味を残してくれるので個人的にはそこもお気に入りポイントかな、と。

 

もちろん個性的なキャラクターも良かった。各々がゲームで勝利することを目指すから貪欲に攻めの手を打ってくるし、能力を開示したとしても、それは本当なのかブラhジュなのかという読み合いもあって良い。

 

美凪との失恋時に慰めてくれた青ヶ島悠乃《あおがしまゆうの》。

そんな悠乃に密かに恋心を抱く玄岩愛華《くろいわあいか》。

 

そんな二人の少女も巻き込んで展開されていくコクハクカルテットはエンターテイメントとして難解になりすぎずに、されども適度な読み応えを生み出してくれていて非常に満足度が高かったです。

 

なによりも傑と凪沙の最後まで貫いた姿勢にはもう感服です。二人の関係性から始まり、何度も交わされる掛け合い、平行線を辿りながらも互いが互いを好いている気持ちに嘘偽りはないということ。ぐっと胸を締め付ける甘酸っぱさがたまらなかった。

 

永遠の愛があるのかはわからない。けれど、永遠の愛を誰だって望んでいる。誰かのことを好きになって、好きになった人のことをずっと大切にして、そうやって過ぎていく日常に幸せという名前をつけて。

 

だから、傑が選んだ最後の選択は彼の主義を頑なに守りながらも、それでもそれだけじゃなかったというところにこれ以上ない救いを強烈に味わいました。

 

そして二巻の発売がすでに決まっているそうで、そのタイトルが「問二、永遠の愛を証明せよ。思い出補正はないものとする。」というのは無性に妄想を掻き立てられますよね。

 

一巻の幕引きが抜群に良かったこともあって、このまま綺麗に終わらせるのが最高だったようにも思うんですよね。ただ僕にとっては美凪の扱いにだけは少し不満を覚えていて、この「思い出補正」というキーワードにもしかかっていて深堀してくるのであればこの意見は撤回しなくてはいけないかもと思うのです。

 

このタイミングで告知するってことは最初から二巻を発売すること前提で企画が進んでたということでしょうしね。何はともあれ今年も残すところわずか、来年も良い小説を一冊でも多く読みたいものです。