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ジャッジメント/ブラッド 真祖の帰還/長谷部雄平

 

ジャッジメント/ブラッド 真祖の帰還 (ファンタジア文庫)

ジャッジメント/ブラッド 真祖の帰還 (ファンタジア文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

<感想>

吸血鬼の在るべき姿とは果たして──!!

 

 

「貴様ら、それでも吸血鬼としての自覚はあるのか?」吸血鬼が表舞台を闊歩する近未来。対吸血鬼組織『血戦局』所属の新宮伊吹はある日、吸血鬼真祖のスカウトという前代未聞の密命を下される。死を覚悟し交渉に臨む伊吹だったが…「我らが血戦局に加入して欲しい」「いいぞ」真祖ヴィクトリアは勧誘を快諾!?しかし抑止力として招かれたはずの彼女は、乱れた現代の吸血鬼事情に憤慨。不良を矯正し、眷属からの喧嘩を買い、ときには吸血鬼アニメにハマったりもしつつ、気づけばヴィクトリアの行動が誰よりも世界を騒がせていて!?原点にして頂点たる吸血鬼の、風紀粛正バトルアクション!

 

吸血鬼という使い古されたネタを新鮮な魅せ方で爽快に描いたバトルアクションとして良い一作でした。

 

舞台は吸血鬼が表舞台に台頭する世界。新宮伊吹はそんな吸血鬼に対抗する組織『血戦局』の一員だった。ところが、増えすぎた吸血鬼に対して組織の手が回らず、吸血鬼事件の発生件数が世界一位という不名誉な記録を残すほどで。

 

そんな血戦局は現状の苦境を脱するために『吸血鬼の戦力導入』という手に打って出ようと考える。導入する戦力としては封印されていた吸血鬼の真祖であるヴィクトリア・リード。変わってしまった吸血鬼の在り方に彼女はなにを思うのか。

 

そんなところから物語は始まっていくわけなのですが、吸血鬼という題材ってライトノベルに限らず創作では好んでチョイスされる傾向があると思います。吸血鬼ってフレーズだけでちょっとエロいなって思ったり、どこか切なく感じたり、そういう面もあるのかなぁと僕は解釈してます。

 

そんな中でもこの作品が新しいなと思ったのは吸血鬼の在り方を描いたところです。吸血鬼ってこうじゃなきゃダメですよね。こうあってほしいですよねってのは王道として積み上げてきた歴史の中に少なからず存在していて、知らず知らずのうちに常識になってしまっていることがあると思います。

 

そこにうまくカウンターを当てたような作品になっていて古き良き伝統を大事にしたい昔の吸血鬼と、革新をもって変わりつづけたいと考える今の吸血鬼の双方の気持ちの衝突が物語の肝となっているのかな、と。

 

なんというか、この後者である”今”の吸血鬼の描き方が面白いんですよね。吸血鬼を増やすためにはもちろん現代の人を吸血して眷属とする必要が出てくるわけなんですけど、”今”の人たちを吸血鬼にすればこうなっちゃうだろうなって内情がリアルに綴られているところに納得してしまったり。

 

進化を否定してかつての栄光に縋りすぎるのもダメだし、変わりすぎて別物になってしまうのはそれはそれで問題があって、つまるところ正解なんてどこにもないんですよね。己の行動がいかに正解かを認めさせるだけ。

 

そういう意味では本作は正しい道理を貫いて結末を迎えたのだろうと読み終わった後にすっきりするのではないでしょうか。なんでもありな吸血鬼、それを悪だと断じるのは間違っているのかもしれませんが、少しくらいお堅くて、クールで、それくらいが吸血鬼らしいのではないですかね?