かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

純白令嬢の諜報員 改編Ⅰ. 侯爵家変革期/桜生 懐

 

お気に入り度:★★★★★

 

<感想>

盲信的な愛に救われるヒトがいるということ

全知全能の暗躍で、少女の破滅を《改編》せよ。

あらゆる任務を成功させてきた、某国最高峰の諜報員・ラプター
彼が転生した異世界は、彼の心を唯一震わせ、そして絶望させた小説『薄幸のロザリンド』の世界そのものだった。
ゆえに彼には分かっていた。令嬢ロザリンド――物語の主人公であり、最も愛した少女が、世にも凄惨な末路を辿ることを。
「こんなバカげた結末――私が必ず変えてみせる」
どんな極秘情報さえ「作品の設定」として全て記憶しているラプター
世界の未来さえも識っている彼は、縦横無尽の暗躍を以て、少女の破滅を〈改編〉する――! 
第34回ファンタジア大賞《金賞》の謀略ファンタジー開幕!

 

こんばんは、カッパです。

今回は「純白令嬢の諜報員」の感想記事になります。

 

本作は第34回ファンタジア大賞《金賞》受賞作ということもあり、全体的な完成度が新人離れした高水準でまとまっており、キャラクターから始まりストーリーにカタルシスまで含めて読後はとても良い読み心地を味わわせてくれました。

 

ラプターという男が本当に素晴らしい。某国諜報員という設定からも人並み外れた能力を持った男ではあるのですが、事ロザリンドの話になれば知能指数が下がって只の気持ち悪いファンになってちょっとキツイとさえ読者に認識させるのだから堪らない。

 

同レーベルで引き合いに出すのであれば「スパイ教室」なんかも似たような印象を抱くのですが、おおよそ完璧と思われがちな男主人公にギャップとしてひとつ弱みを付け足すキャラ付けは個人的に好みなのでとても印象が良かったです。

 

主人公であるラプターの性質上、少し物語が平坦になっている個所もあるのですが、それを気にさせないくらいに各要素の完成度が高いファンタジーになっているので素直にオススメできる作品だな、と。

 

さてさて、簡単なあらすじとしては、某国最高峰の諜報員として活躍していた主人公・ラプターの生きがいは小説「薄幸のロザリンド」を読むことにあって、感情に乏しい彼が心を動かされるのはその作品に触れるときであるという冒頭から物語が始まります。

 

スピンオフや資料集、インタビューなど幅広く押さえてきた大ファンでもある彼がどうしても納得できなかったのは本編のラスト。タイトルからあるように人よりも不幸せな人生を送ってきた作品の主人公のロザリンドが最後には「どうして自分は生まれてきたのか」と自問をして身投げをして終わるという完全なバッドエンド。

 

諜報員として生きるというのは敵も多いということ。この物語の結末を受けて頑張る気力も失ったラプターは命を落とし、転生することになるのですが、その転生先がロザリンドの生きる「薄幸のロザリンド」の作品舞台。

 

死に間際に彼は自分なら「薄幸のロザリンド」の終わり方はああはしないと考えていました。けれど、確定した事実を書き換えることができない。けれど、今なら、同じ作品舞台にやってきた今なら彼女の残酷なエンディングを変えることができるのではないかと奔走していく物語となっています。

 

もうこれ以上ないくらいにストーリーラインがわかりやすいですよね。僕たち読者からしても作品の結末やヒロインの扱い方で解釈違いを起こすことは数多くありますし、だからこそ同人作品という形で自分の愛したヒロインのことを愛でる文化だってあると思うのです。

 

ゆえに、これは同人作家の思考を作品に落とし込んでみましたという捉え方ができると思うんですよね。自分にとってのバッドエンドをグッドエンドへと書き換えていく物語と言えばいいのでしょうか。

 

タイトルにある「改編」という単語が何よりもそれを証明していますし、おそらく今後は原作にはなかった要素なども飛び出してどんどん物語が面白くなっていきそうな予感がしています。

 

また、キャラクター面に関してもネガティブなところから逃げずに、比較的リアリティのある造詣を取っているのと、展開も含めて無駄のないところが好印象でした。

 

アルビオン王国にて髪や肌が白くなり瞳が紅くなり日光に極端に弱くなる奇病──日光病であることを理由に生まれてきてこの方ずっと城の地下牢に閉じ込められながら生きてきたロザリンド。

 

王国の庇護を受けられない移民や浮浪児などが跋扈するスラム街で自分の身体を人質に賃金を稼いで日々を過ごしてきたニシャ。

 

どちらも壮絶な人生を生きてきた二人ではあるのですが、原作ではよき友達として良い関係性を築く二人ということもあって、そこをラプターが手助けする形で繋げて徐々に深まっていく絆というのは純粋に素敵だなと思うし、原作を知るラプターの存在がどうだ? この物語は面白いだろ? と言ってきているみたいで違った楽しみ方なんかもしたりしました。

 

この物語のテーマは愛です。人にとって最も大きな感情は愛だという表現がありますが、その側面を考えるとルイスという男キャラクターのこともどこか憎めない気持ちにさせられるんですよね。

 

ワイアットという男はロザリンドへの仕打ちも含めて正真正銘のクソ野郎だとは思うんですが、ルイスはそんな彼から受け取ったものを愛情と名付けてずっと大事にしてきた男なんですよね。

 

だから、きっとルイスが最後までワイアットに忠誠を誓った心はラプターが無償の愛をロザリンドに捧げているのとなんら違いはなくて、最後の最後にルイスが採った選択は明らかな悪手で、ロザリンドを人質にしなかった理由には彼なりの愛の形を見ることができたのでこのまま死んでしまうのは実に惜しい。もう存在しない、共闘する未来が見たかったなと素直に感じました。

 

さてさて、物語としてはロザリンドが爵位を手に入れここからどう展開していくのかというところで終わっています。タイトルはナンバリングになっていますし、これを序章としてもっとストーリーが盛り上がっていくことが想定されますので続刊以降も心待ちにしたいところ。