かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

天使は炭酸しか飲まない/丸深 まろやか

 

お気に入り度:★★★★☆

 

 

<感想>

恋の悩み相談から始まる上質な青春ストーリー!!

 恋に悩みはつきものだ。
 気持ちを伝える勇気がほしい。意中の相手の好きな人が知りたい。誰かに悩みを聞いてほしい。背中を押してほしい。
 そんなやつらの気持ちが、俺には痛いほどわかる。
 忘れられない過去があるから。そして、彼らを救える「ちから」があるから──。
 だから、俺、明石伊緒は“天使” となった。
「やっと見つけたわ、久世高の天使」
 恋多き乙女、柚月湊の異常な惚れ癖を直すため、天使は少女の頬に触れる。記憶と恋がしゅわりと弾ける、すこし不思議な青春物語。

 

あけましておめでとうございます。カッパです。

今回は「天使は炭酸しか飲まない」の感想記事になります。丸深まろやかさんと言えばオーバーラップ文庫から刊行された「美少女と距離を置く方法」がとてもお気に入り作品だったので手に取った次第ですが、いやあ、年始からとても良い青春物語に触れることができたという気持ちでいっぱいです。

 

複数人の異性に好意を抱いてしまうことを悩みに持つ少女と、他人の頬に触れるだけでその人の想い人を知ることができる超能力を持つ少年が織りなす物語は青春成分100%で届けられる読後も気持ち良い一冊でした。

 

さてさて、物語は主人公・明石伊緒(あかしいお)という少年が持ち前の能力を活用して、学校内で恋の悩みを抱える学生の相談役を担っている場面から始まります。徹底的に素性は隠したままで相談者の話を聞く設定がまず引き込まれるポイントになっていますし、報奨を受け取らないスタンスから彼が天使と名乗ってまで恋の悩み相談に付き合う理由が知りたくなる良い導入ですよね。

 

で、彼が頑なに素顔を晒さないポリシーを採るのは相談しやすい環境を作ることや、自身の活動の妨げにならないような計算があるのと同時に、他人の頬に触れることで想い人を見抜くという能力を他者に気付かせないためというものがあるのでしょう。

 

ところが、その彼の能力に気付いてしまう少女が現れるわけです。それが今回の相談者の意中の相手である柚月湊(ゆづきみなと)だったんですね。この物語は天使の正体をバラさないことを引き換えに、そんな彼女自身の悩みである「異常な惚れ癖」を解消するため二人が日常を共にするようになる物語となっています。

 

あらすじもそこそこに、どこが良かったのかというと彼女の惚れ癖の傾向調査のために二人の距離が少しずつ縮まっていく過程が素晴らしいんですよね。まず湊の現状の想い人の数を確認するために何度も手で頬を触る。

 

深い意味はないとわかっていても、間接的だからこそどこかドキドキさせてくれるような青春の甘さがあったと思います。そういった胸がきゅんとするような仕草をベースにしながら丁寧に二人の心を切り取ってくるからとても好みでした。

 

また、この物語にぐっと深みを出しているのはやはり天使である伊緒が過去を引きずりながら生きているところにあると思います。湊が誰でも好きになってしまう少女だと表現するのであれば、伊緒は誰のことも好きになれない少年だと捉えることができます。まるで正反対の二人ではありますが、大事なのは過去を引きずり続ける共通項を抱えているという部分にあるのかと思います。

 

というか、タイトルにも繋がってくる話にはなるのですが、伊緒がかつては苦手だった炭酸を今は好んで飲みつづける理由が切なすぎる。それほどに誰かのことを愛した彼だからこそ誰かの恋に寄り添う資格があるという説得力にもなっているし、このタイトルからまた違った味を感じることができるギミックになっているなあ、と。

 

そして個人的に何よりもぐっと胸を掴んで離さなかったのは終盤の展開にありました。捏造された湊の過去に関する噂が吹聴される現状に対して、自分が天使であることが発覚するリスクを背負ってまで行動する激情溢れるシークエンス。ここは青臭いながらもこの年代にしか出せないエモさを感じて強く印象に残っています。

 

ただここのシーンって熱くなってそのあと切なくなってしまうんです。それは伊緒の行動原理の裏にはやはりかつて愛した彼女の姿があるからです。超能力は決して万能じゃない。誰かを救えるときもあれば、救えないときだってある。それでも能力も含めて自分であるということ。

 

ラストの展開で魅せた伊緒の振る舞いは天使としての能力では救えなかった彼女を、天使という名前を使って救うという構図をとっていてめちゃくちゃ美しいなと感じました。

 

読み終わった後の余韻も抜群に良くて、一月からぐっと心を鷲掴みにしてくるような作品に出会えました。脇を固める友人キャラも良い個性を持っていて好感触です。

 

単巻としての出来栄えが素晴らしいことを認めたうえで、まだまだ掘り下げる余地がある作品ではあると思うので今後の動向が楽しみな一冊でした。