かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

君と夏と、約束。/麻中郷矢

 

君と夏と、約束と。 (GA文庫)

君と夏と、約束と。 (GA文庫)

 

 お気に入り度:☆★★★★

 

 

 

<感想>

切なくも温かい夏の終わりの物語、ラストの余韻に浸れ!!

 

 

消えたはずの彼女は、時を隔てて再び現れた7年前に突如として消えた彼女。無為な日常を送りながら大学生になった彼。彼女があの頃の姿のまま現れたことで、二人の時間がまた動き始める。「葉月、なのか……?」「うん……そうだよ」7年前に行方不明になった彼女は突如として現れた。消え去った当時のままの14歳の姿で――。かたや大学生になっていたヒナタ。同級生だったはずの二人に生じた7年のズレ。齢の差があっても気持ちを通わせ合う二人だが、お互いが覚えている「昔の記憶」には、なぜだか微妙な違いがあり……。ふとヒナタの心に疑問が浮かぶ。目の前にいるのは、本当にかつて一緒に時間を過ごした相手なのか?それは葉月も、また同じだった。彼女はおびえた目でヒナタに問いかけてきた。「あなたは……誰、なの?」

 

夏! 約束! タイムリープ

王道とも呼べる夏の切ない青春ストーリーが胸に沁みる。必死で積み上げてきた物語があるからこそ終盤の展開からラストの流れはやはりぐっとくるものがあるなあ、と。

 

舞台はとある田舎町、主人公であるヒナタが同級生の葉月に告白するところから物語は始まります。やっと思いが通じた、そんな矢先に葉月は行方不明となって。七年の月日が経ったある日、ヒナタは運命的な出会いを果たします。それは当時消え去ったはずの葉月そのままの少女で。そこから二人の止まった時間はゆっくり動き出すといったところが導入になるんですけど。

 

まぁここから繰り広げられるのは二人のイチャイチャなわけです。戸惑いながら、お互いの距離を確かめ合うように近づいたり遠ざかったりする二人の所作にはニヤニヤしちゃいます。おいおいおまえらいいぞいいぞもっとやれ!

 

作品としては一人称視点を採用してあるのですが、時折挿入される葉月視点での描写もすごく効果的で良かった。いったい葉月はどう思っているのだろう。そんな欲しいところで補うようにして彼女の心情がかっちりした地の文と共に届けられるので読んでいて安心感があります。

 

ただ物語としての魅力はイチャイチャというよりはそのあとに展開される同じものを見ているはずなのに食い違ってくる二人の違和感でしょうか。ヒナタと葉月の間には七年間の差があって、中盤では新事実も発覚して、それがうまいこと二人の距離を離していきます。

 

世界設定におけるトリックは少し強引で引っかかるところがないわけではないのですが、そういった大事なところで魅せていくことによってとりあえず先が読みたいと思わせるのは新人賞作品だからこそかなあと思ったりも。

 

あと、喜野瑠乃がいい味出してる! 離れていく二人の距離をなんとか繋ぎ止めたのがこのキャラなわけですが、誰のことも好きになれないのに陽気な振りする女の子。僕はこういうキャラクターが心底好きで、喜野とヒナタの対比などによって物語は深みが出たかなと思います。

 

ただ少ししっくりこないのはラストを考えると喜野があまりにも物語の味付けのために振り回されすぎているように感じて、もう少し他の手はなかったのかなあ、と思ったりも。

 

なにはともあれ、粗もありましたが手堅く青春ストーリーとしてまとまっていました。想いは時を超える。誰かが誰かを想う心が誰かを救う構図は相変わらず大好きだ。