かっぱの書棚

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追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ/田辺屋敷

 

追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ (ファンタジア文庫)

追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ (ファンタジア文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

第29回富士見ファンタジ大賞、金賞+審査員特別賞受賞作!

 

<感想>

王道の青春SF!!

 

 

野球部を退部して灰色の青春を送っていた主人公・篠山マサキ。変わらない日常がこれからも続くはずだった。けれども、通い慣れた教室に見知らぬ少女の姿を見た。容姿端麗で成績優秀の優等生・風間ハルカ。周囲が彼女を持て囃す一方で、マサキの記憶にそんな少女の面影はなかった。しかも後日ハルカが猫被りの優等生であることが発覚し、思い違いから仮面恋人を演じさせられることになる。出会うはずのない二人で過ごす日々。次第にその日常を心地よく感じ始めるマサキ。けれど、出会うはずのない二人の時間は決して永遠ではなかった。追い込まれた先でマサキの取った行動とは──

 

賛否両論な物語ではありますが、青春SFスキーにはたまらない一作!

”そこ”にいるはずのない少女を前にして動揺するマサキの心の機微が良かった。世界がおかしくなったのか。自分がおかしくなったのか。SFの鉄板ネタではありますが、物語の序盤から先を読ませるギミックとしてうまく働いていたかなと。

 

また陳腐な恋愛感情に傾倒しなかった所が本作の魅力のひとつかなと思います。青春+SFを題材に物語が展開される場合は恋愛と世界のロジックに重きを置いてしまって他に触れることなく終わってしまう作品が少なくないです。しかし、本作に至ってはマサキとハルカに乗り越えるべき壁を配置してやって、それを一緒に乗り越えたがゆえに深まった感情を恋愛として落とし込めていて新人賞としては頭一つ抜けてるなあと感じさせられたりもしました。

 

ただひとつ伸びきらなかったのは伏線の張り方が少し明け透けすぎて物語展開が予想しやすくなってしまったところでしょうか。ここは良い意味としても悪い意味としても機能してしまったように感じて、もう一工夫あればもっとガツンと心に響く演出となるシーンがあったかもしれないと思ったりもしました。

 

キャラクター的には主人公のマサキがとても良かった! 物語の序盤は自堕落な毎日を送るだけの少年で、その理由に触れられることもないのですっきりしないところがあります。けれど、物語も折り返しに入るころには徐々に素顔を見せてくれるようになり、終盤の男前っぷりには肩をぽんぽんと叩いてやりたくなります。幼い頃から大事にしてきた正義感は彼の大切な魅力のひとつだと最後になって納得させられる構成は憎いですね。

 

あと、タイトルにもセンスを感じた。というのも、追伸が作中では明言されないんですよね。そこが言葉として欲しかったって意見もわかるんだけど敢えてタイトルにこのフレーズを使うことの巧さに僕はやれましたね。『君』を笑わせることができたソラゴト。今回の物語そのものが追伸だって言ってるんですよね。物語を噛み砕いて自分なりに咀嚼して浮かび上がった感情こそが作中で語られなかった『追伸』であると。読後感の爽快さも相俟って非常に胸の熱を刺激するタイトル。

 

さてさて、綺麗にまとまった良著となっていたので続刊はないでしょう。とはいえ、一作目でこれだけの作品を書き上げたとなると次回作を期待してしまうのが人というもの。荒い言葉を使った言葉の応酬も味があったのでギャグの効いたラブコメ方面でも戦っていけるのでは? と個人的には思ったのですが、次の路線はどうなるんでしょうかね。今後が楽しみな新人さんだ。