この世界にiをこめて/佐野徹夜
お気に入り度:☆★★★★
<感想>
たかが小説、たかがフィクションが世界を変えたっていいじゃないか
日常に生きづらさを抱え退屈な毎日を過ごす少年・染井浩平の趣味はとあるアドレスに取り留めもない言葉をメールすることだった。帰ってくるのはエラーメールのみ。そのアドレスはすでに誰も使っていないはずのものだった。しかし、ある日そのアドレスから一通のメールが届く。『現実に期待なんかしてるからダメなんだよ』そのアドレスはすでに亡くなった天才作家・吉野紫苑が扱っていたものだった。中学生でデビューを果たして以後、自ら命を絶った少女から返ってくるはずのないメールが返ってくるとき、浩平の止まっていた時間はゆっくりと動き出す。
吉野紫苑はいい女だ。こんな書き出しは実に気取っていて傲慢にも聞こえかねない一文ですが、それほどに吉野は僕たち読者をも惹き込んでしまう魔法にも似た魅力を備えた少女だと感じたのがこの作品の第一印象です。
吉野の放つ孤高のカリスマ、折れたら元通りにはならないような脆さ、それでも追い求めたいと願ってしまう輝き、ほんとに彼女の輝きの理由は枚挙に暇がないとはこのことで、それくらいに吉野という天才作家は作中で見事に際立っていました。
そういったキャラクターだからこそ彼女の唐突の逝去にも浩平が吉野のことを引きずることも説得力感が出ていてよかったと感じさせられました。