かっぱの書棚

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オリンポスの郵便ポスト/藻野多摩夫

 

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)

 

 評価:★★★★★

 

 

 

<感想>

滅びに向かう火星で展開される温かい物語が胸を打つ!

 

めーちゃくちゃ良かったです、これ。

 

 

この作品は純粋に世界観から引き込まれる構図になっています。テラフォーマーズという単語は近年はSF作品に限らず現実世界でもよく耳にする言葉ではありますが、そんな火星での移住生活は想像よりもスムーズに進まず何なら火星という星は滅びゆく一途を辿るしかない現状に窮してるところから物語が始まるんですよね。それだけで男の子の頭としてはドキドキしてくるわけなのですが、そこにロボットは出てくるし、伝説のポストを目指して旅をするし、その旅も一筋縄じゃ行かないってそりゃ良い作品になりますよって感じです。

 

物語のベースはロボットであるクロを伝説のポストまで連れて行くことにあるのですが、その道が難解なことこの上ない。くわえて道中で出会う人たちとのエピソードがこれまた胸に沁み渡るんです。世界はこんなにも滅びの道を歩んでいるのにそこに住む人たちは時に切なく時に温かい。この手の物語だと世界設定に頼ってとりあえず切ないお話を書いて成立させるというやり方もあるのですが、そこに落とし込まずに奥行きのある演出に仕上げていたところにはバンザイです。

 

また本作のキーワードは手紙です。というのも伝説の郵便ポストを目指しているのですから当然ではあるのですが、エリスも手紙を書いています。クロだって。他の登場人物だって書いてます。この使い方が非常に効果的だったのが印象的です。この世界になくなってしまうものがあるのだとしても、手紙は、言葉は失くならない。

 

勿論のことキャラクターの魅力も十分でした。実は中盤で出てくるキャラクターが決して良い奴ではないのですが印象的でした。そういったところも含めて要所要所のキャラもいいのですが、僕的にはエリスとクロの二人の関係性がとても素敵だったところが一番心に残っています。人よりも多くを考えているから思った事も口に出してしまうエリスのもとに、どこかおとぼけで掴みどころがないんだけどここぞという時の包容力が抜群のクロがやって来る。これ、最高じゃありませんか? めちゃくちゃ良いコンビとして機能していて二人の些細なやり取りがイチイチ微笑ましくてたまりませんでした。

 

単巻ながら圧倒的な世界観で魅せる物語を読ませていただいたので大層満足しています。おそらく続巻は無くこの一冊で物語は完結でしょう。ただ設定と世界観が非常に魅力なのでこの世界を舞台にしたスピンオフ的な外伝とかあったら読んでみたいなあという気持ちは沸々とわきあがってきます。作者さんが今後どのようなお話を紡いでいくのか期待できる良い一冊だったと思います。さすが電撃文庫