かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

リンドウにさよならを/三田千恵

 

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

 

 評価:★★★★★

 

えんため大賞

 

<感想>

絶妙な構成で紡がれた青春に胸の奥が温かくなること間違いなし!

 

いやファミ通文庫さんこういうのが読みたかったんですよと諸手を挙げたくなるほどに素晴らしかった。

 

主人公・神田幸久は幽霊である。想いを寄せていた少女・襟仁遥人の代わりに屋上から転落死をしたことに幸久は学園の地縛霊として校舎をさまよっていた。誰も彼のことを視認できない中、一人だけ彼の存在に気づいた者がいた。穂積美咲というクラスでいじめに遭う少女だった。一緒に過ごすうちに穂積の等身大の魅力に触れた幸久は、どうにかして彼女をクラスの輪に溶け込まそうとイメージチェンジを提案する。順風満帆とまではいかないものの徐々に人との付き合い方を取り戻していく穂積。それを気に入らないと思う少女。幽霊が見えるという処女。物語が進むにつれて集まるピースが幸久の謎を解き明かすことになるのだが──

 

文句なしの五つ星! ファミ通文庫さんの青春モノって独特の雰囲気を感じることができて好きなんです。詩的で、綺麗で、読んでいて割れ物に触れているような気持ちにさせられる、そんな繊細さが魅力の作品が多いイメージがあるというか。

 

本作もその空気から漏れない至極の青春物語となっていたと思います。冒頭から主人公である幸久が幽霊になっているという設定はありがちなのですが、そこに意識を取り戻したのが二年後というさり気ない設定を盛り込むだけでぐっと関心を引き寄せるネタとして機能していたように思います。

 

そこから丁寧に繰り広げられるお話がもう最高の一言! いじめに遭っていた穂積ちゃんがそれはもう可愛らしいんですよ。教室では気持ちも落ちて暗い表情に沈んでいるのですが、いざ幸久と二人になると普通に喋ってくれる。色んな表情を見せてくれる。相手のことを考えて発言できる。とても人に嫌われるような性格じゃないんですね。この子がどうしてクラスでいじめられてしまうんだ、と。イメージチェンジの流れも美しかった。敢えて口には出さないけど行動に移すことで二人の心の距離が近づいたことを如実に伝えることに成功していて、他でもない二人で始めた積み重ねが結果に繋がる瞬間なんかは青春そのもので不覚にも胸が高鳴ってしまいました。

 

あと物語の構成も抜群に良かったですよねえ。現在の物語進行と並行して幸久の過去のエピソードが挿入される構造になっているのですが、これが出会って間もない穂積ちゃんに優しくする理由づけとしてうまく作用していたなあと。ただ憎いのはこの描写がそれだけのためではなく、もうひとつの真実という側面のために仕込まれたネタだってことに後から気づく仕組みになっていてこれは一本取られたなあと感じたりも。

 

いや、他にも色々語りたいことあるのにネタバレになってしまうから触れるのも憚られてしまうこのもどかしさ……!

 

キャラクター的にはやっぱり穂積ちゃんが大好きです。自分の中にたしかな芯があって、怖れていることにも勇気を持って立ち向かうことができる。一歩踏み出す勇気をしぼり出せたのはきっと幸久の手助けがあったからなんでしょうけど、勇気自体は穂積ちゃんのものです。また、劇中内で出てくる「生きることの価値」に対する答えも彼女が言うからこそしっくりくる言葉となっていてとても印象に残っています。

 

本作は「生きることの価値」を問いかけた非常に完成度の高い小説になっていたと思います。おそらく一巻完結の作品ではあると思うのですが、この先が気になる作家さんだと自信を持って推せます! 繊細な言葉を巧みな構成で魅せた本作を受けて次回作はどんなお話になるのか今から楽しみでなりません!