かっぱの書棚

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魔術学園領域の拳王/下等妙人

 

魔術学園領域の拳王 黒焔姫秘約 (ファンタジア文庫)

魔術学園領域の拳王 黒焔姫秘約 (ファンタジア文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

 第29回ファンタジア大賞《銀賞》受賞作!

 

<感想>

病的なまでの勝利への渇望が物語を熱くする!

 

 

舞台は魂を武器に変幻させて戦う魔術師が存在する世界。そんな魔術師を育成する龍帝学園の一年生である立華紫闇は異能もロクに使えない落ちこぼれだった。いつかは強くなれると己の可能性を信じて努力をする毎日だったが、ボロボロにされてしまう。完膚なきまでの挫折を味わった紫闇は一人の少女と出逢う。名前は黒鋼焔。今時珍しい体術と実践に特化した黒鋼流の使い手だった。強さを求める一心で弟子入りをした紫闇は苛烈を極める修行の中で徐々に才能を開花させていく。諦めなければ出来ないことなどない。挫折から拳だけで這い上がる泥臭い学園異能バトルの行く末は──

 

初めに言っておきます。もうメチャクチャ熱いですこの作品。今のファンタジア文庫の売れ線である育成モノというだけで注目作という感じはしますが、ファンタジア大賞を受賞した作品の中でも飛び切りに燃え成分に特化してます。読んでるだけでも汗を吹き出しそうな熱血具合。清々しいまでの物語展開にのめりこむのにそう時間はかからなかったです。

 

どう熱いのかという話がしたいんですけど、挫折を経験して最下層からの成り上がりストーリーになってるんですよね。それが生半可な挫折でなく、もうこれ以上はないだろうという位のどん底に突き落とされてからも紫闇は決して折れずに前に進むんですね。その泥臭さがたまらなく心地良いんです! 貪欲に勝利を求めて、勝つためなら狂ってしまおうが構わない。よそ見など一切なく、ただ前の勝利だけを掴むその姿勢に心が震えないわけがない。

 

そして何よりも主人公のライバルキャラ・江神がまーた最高に熱いんですよね!

物語の序盤も序盤でその強さを目の当たりにした紫闇は彼に憧れるんですね。けれど、学園で晒した無様な負け恥に江神には失望されてしまうんです。けれども、打倒江神という目標を掲げてのしあがっていく紫闇。なぜだか無視できない江神にも隠された事情があって。二人の信念や運命が熱く衝突する決戦は見逃せないバトルに仕上がっています。もうこの二人とくれば立華立華江神江神とお互いに意識しまくりで正直いうとこの江神の方がヒロインよりヒロインしてたほどなんですよね!

 

ただ苦言を呈すのであれば、じいさんがちょっと面倒臭すぎたというのはありましたね。良いキャラづけとなっていて物語のアクセントとしても機能しているんですけど所々やりすぎて純粋な物語の魅力を阻害しているように感じる場面もいくつか。とはいえ、僕はああいうジジイキャラ好きですけどね。

 

また、魅力的なキャラクターで溢れてる作品ではありましたが僕の中で特にピンときたのはクリス・ネバーランドだったりします。この子はどちらかというと主人公サイドでどうこうというキャラクターではなく江神サイドの取り巻きのような少女なのですが、その立ち位置が素晴らしい。江神を讃え、褒めそやし、持ち上げるだけの女モブじゃないんですね。江神を倒すのは自分しかいないと信じ込んで誰よりも江神の強さにまっすぐ立ち向かいたいと思ってる女の子なんですよね。もうこれだけで最高にテンションのあがるキャラ配置だよなあと思ったので彼女が僕の中ではベストオブヒロインです!

 

さてさて、一巻から非常に密度の濃いバトルが繰り広げられたので続刊はもっとスケールの大きな話になってくるのかなあと色んな想像ができますね。圧倒的な力をもつ紫闇の師匠である焔との関係性もどうなっていくのか。ヒロイン力を垣間見せたもののあまり見せ場になっていなかった(?)ので、今後は彼女には武道ではなくヒロイン力をめきめきとつけていく姿なんかにも期待したいところです。