かっぱの書棚

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86─エイティシックス─/安里アサト

 

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 評価:★★★★★

 

第23回電撃小説大賞<大賞>受賞作!

 

<感想>

圧倒的な世界観で紡がれる少年少女の自由を求めた戦いの日々が心を掴んで離さない!!

 

素晴らしかった。

 

帝国軍の無人兵器<レギオン>による侵略を受ける共和国は有色人種を「86─エイティシックス─」と蔑視し、人類の最後の楽園である八五の行政区の外側の人外領域で理不尽な暴力と戦わせる日々が続いていた。物語は少佐に昇進したレーナが死神と称される少年の在籍する第一戦区第一防衛隊付指揮管制官に任命されるところから始まる。「86─エイティシックス─」などと差別をし、人でないものを扱うような考え方はしないと考えていたリーナを待ち受けていたのは想像よりもずっと凄惨な日常だった。平和に自由、平等を謳う共和国。誰かの幸せは誰かの犠牲の上に成り立っている。過酷な戦を強いられた少年少女が自由を手に入れることは叶うのだろうか──

 

どんな物語であっても圧倒的な世界観で紡がれた物語には自然と魅入られてしまうことがあると思う。この作品も例に漏れることなく一気に引き込まれた。戦に用いられる無人兵器。徹底的に描かれる人種差別。伏線を散りばめ、無駄のない構成でまとめあげた手腕は新人離れしてると思わされてしまいます。

 

この作品の物語は描き切ったところにあると思います。もちろん戦ものですから死人は出ます。血だって流れて読んでいて痛ましく思うことだって少なくない。深みのある世界観に没入すればするほど同情にも似た感情が胸を撞いて溢れてきます。けれども、登場人物のキャラクターたちは懸命に毎日を生きてるんですよね。絶望の中に立たされた少年少女のひとつひとつの行動や思考の説得力。この辺りは読んでいてガツンとやられることが多くありました。同情するのは僕らが平和のぬるま湯に浸かっているから。虐げられて罵られて、それでも少年少女が戦い続ける理由を知って、そのあまりの清々しさを知っていただきたい。

 

キャラクター面でも光る箇所が多かったなあというのは感じました。というのも、平和の中で育ったリーナとそうでない86の面々の考え方の違いが如実に描かれている様が良い。間違って、ぶつかって、それでもしがみついて、そういった積み重ねの上で物語が展開していく流れは退廃的な世界観とは裏腹な感情を呼び起こしてくれて良いギャップとして働いていたなあと。

 

さてさて、お話としては綺麗にまとまったなあという印象を抱いたのですが、どうやら物語は続くようです。いやあ一巻から壮大なスケールで展開されたこともあって続刊からはどのような広がりを見せるのか今から楽しみでなりません。