かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? #04/枯野瑛

 

 評価:☆★★★★

 

 

<ネタバレ感想>

 

引きがずるすぎる!!

 

何度と仄めかされてきた過去篇が描かれる第四巻。

まずこちらの意表を突くかのようにこのタイミングで持ち出してくる辺りに驚かされました。過去の物語の扱い方として違和感なく機能させていたところも良かったですね。

 

でも、何よりもラストですよ! ラスト!

物語が進むにつれてぼやけていた景色が段々と見晴らしが良くなっていく感覚だけはありました。それが徐々にイヤな予感に変わったりしてからのラストですよ! もうどうなっちゃうのっ!? って感じですよね。

 

物語は3巻の続き、クトリの命が途絶え、五百年前の終末以前の世界に迷い込んだヴィレムとネフレンが目を覚ますところから始まる。目の前に広がるのはかつてヴィレムが過ごした故郷の原風景。偽りの記憶でした。人も街も何もかもがそのままの姿で存在して、唯一まちがっているのは自分たちが”ここ”にいるという謎だけ。

 

前半で描かれるのは、まるで夢のような平穏を絵で描いたような日常。

ほんとに過去の物語の扱い方がうまい。絶望にまみれた現実と対比するかのように平穏だった日常を夢として扱うあたりにセンスをビシバシ感じるし、夢はいつか覚めるものなのだと考え出すと自然と物語の行く末みたいなものも深読みできてしまうからダメ。ほんとにダメです。

 

それに、また出てくるキャラクターがいいんですよね。これまでに名前だけ引用されていた登場人物を筆頭に新しいキャラクターが出てくるお話でもあったんですけど、準勇者として仲間だったナヴルテリや冒険者のテッドなど個性豊かなキャラが多く、ヴィレムよりもずっと他でもない自分がこの世界に浸っていたいだなんて思わされたりもしました。

 

だなんて、全部いいんですけど、僕がこの巻で一番ガツンとやられたのはやっぱりヴィレムとアルマリアの関係性がきちんと描かれていたところだったりします。というのも、二人の間柄って少量の情報の断片から勝手に類推するしかありませんでした。

 

約束を果たせなかったことを五百年先の世界で人間が滅んでも引きずりつづけたヴィレムの様子から察するに二人の関係性は恋人に近かったのではないか、なんて想像をしていたことも事実です。

 

けれど、今回はっきりしましたよね。ヴィレムとアルマリアの二人は親と娘という確かな絆で結ばれていたのだなと。チーズケーキを焼いてくれ。たったそれだけのなんてことない言葉も二人の心の距離が描かれることによってまた感じ方が変わって胸を締めつけてきます。

 

わかってる。どうにもならないことだって。

それでも、もう少しだけ救いを求めてしまうのは仕方のないことではないでしょうか。