かっぱの書棚

ライトノベルの感想などを書きます

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう/持崎湯葉

 

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

 

 評価:☆☆★★★

 

 

<ネタバレ感想>

 

ラストがびっくり!

 

面白かったのは面白かったのですが、読み終わったあとにそっち行っちゃうかーというのが率直な意見でした。ちょっと予想していなかった展開だったというか。

 

品行方正で成績優秀の完璧な幼なじみ・彼方には裏の顔があった。それは取りたてて特徴のない平凡な主人公・詩歌の前ではアニメ・マンガ・ゲームに傾倒するぐうたら人間『駄彼方』となってしまうところだ。

 

学園では成績も飛び抜けて良くて、なんなら詩歌の面倒は私が見てますと言わんばかりの態度であるのに詩歌の前でだけは本性をさらけ出すというか隙を見せちゃうというか、そういうヒロインってああ魅力的だと感じる。

 

そんな弱さもある駄ヒロインの彼方がなんと分裂してしまうのが物語の主旨だ。

 

彼方の詩歌への想いから生まれた「うなた」、詩歌との記憶から生まれた「きなた」、食欲から生まれた「しなた」、そして記憶を失った彼方の四人と始めるラブコメディは小気味良いテンポで織りなされるので読んでいて気持ちがよかった。

 

詩歌はなぜ彼方に告白しなかったのだろうと後悔をする。こんなことになるのなら想いを告げておくべきだったと。初めこそ、早く元に戻らないかと願いつづけた詩歌ではありますが、その心境が徐々に変化していく様も良かったなあと。

 

けれど、この物語で何が一番ドキリとさせられるかというと、その彼方の感情の一部分でしかない彼女たちがそれぞれ詩歌に恋をしてしまうところにあります。

 

とにかく切ない。誰の恋が成就しても誰かは傷ついてしまう。元を辿れば同じ『彼方』であるはずなのに。ましてや、本来の彼方を選んでしまえば三人の気持ちにはすべて蓋をすることになる。

 

この辺りの選択を迫ってくる辺りはぐぐぐと物語に引き寄せられたなと感じます。

 

きっと誰を選んでもハッピーエンドではあったと思うんです。

けれど、最後に詩歌と彼方の選んだラストは驚かされる選択肢でした。二人の想いを伝え合って、気持ちは分かり合えてるのに、うまくいかないラストには考えさせられるところがありましたが、切なくもあり、素敵なフィナーレだったと思います。