おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界/松村涼哉
評価:★★★★☆
<感想>
真実の魅せ方と青春特有の痛みの合わせ技が絶妙だ!
第22回電撃小説大賞で大賞を受賞した『ただ、それだけでよかったんです』が正直に言ってめちゃくちゃ素晴らしかった。青春と友情を巧みなトリックなんかも使ってダークな世界観でみっちり描いた作風が大好きで次作はどうなるのかとぼんやり考えていた。
作風を変えてくる可能性も考えてみたけれど、蓋を開けてみれば前作と同様に青春時代のどうしようもない痛みであったり、主人公を巻き込む形で膨れ上がる事件が繰り広げられていた。
もちろん良い意味でとても電撃文庫らしくないのだけど、ミスリードから覆す切なくも温かい真相だったりどこかしらに転がるちっぽけな幸せみたいな松村さんの作品が僕は大好きだ。
というのが前置きでここからが本編の感想なんだけど、僕が今作で良かったなと思ったのは斎藤由佳の狂いっぷり。
この手の作品ってどれだけリアルに描けるかがすごく重要だと思っていて、その現実感が強く描かれているだけで物語の完成度はぐーんとあがるものだと個人的には考えてたりする。
そのファクターとして一躍買っていたのが斎藤由佳だったかなと。
あんまり同意はしてもらえないかもしれないけど、あの子って最後まで狂い倒すんですよね。
主人公の気持ちも踏み躙って、悲劇のヒロインをうたって自分のことしか見えていない。最後まで読んでも救えないキャラだなって思うんですけど、その一方で一番リアルさを感じさせてくれたキャラでもあるんですよね。
母親がおかしくなって父親までおかしくなって家庭崩壊を余儀なくされて、唯一の心の拠り所であった親友まで実の父親に殺される。落ちるところまで落ちたのにそこからも孤独の道を辿り、いじめ抜かれる。
そんな少女の心がまともであるはずがないんですよね。
そこから目を背けずに見事に描き切った点はこの作品で一番輝かしいところではないのかなと思います。
作中で武田先輩は言いました。
「退け。見捨てろ」
大人の世界はそうやって成り立っています。
自分が救える者にしか手を貸さない。守れないものにまで責任はもたない。
何かを背負うためには何かを切り捨てなければいけない。
そういう意味では音彦は不器用だったのかもしれない。
頼られていい気になって、気づいて人より秀でている気になった。
そういう意味では陽人も不器用だったのかもしれない。
タイトルの嵌まり具合が読後感をぐっと深いものにしてくれている。