いつかの空、君との魔法/藤宮カズキ
評価:★★★★☆
第21回スニーカー大賞「優秀賞」受賞作。
<感想>
圧倒的な世界観で紡がれる幻想的な物語が胸に沁み渡る!
高くは飛べない主人公カリムと空でしか生きることのできない少女揺月の明かされる過去が切ない。
ツンケンした揺月。
どこか軽薄なカリム。
二人を形作るエピソードを
揺月を傷つけてしまったことを引きずり続けるカリムの気持ちは痛いほどに分かる。自分の至らなさが原因でヘクサの才能に充ち満ちていた揺月に「大食い」というハンデを背負わせることになったんだから。
けれども、当の本人である揺月はカリムに今の自分を見てほしかった。罪悪感じゃない、トラウマでもない過去の自分ではなく今の自分を目にすることが独りぼっちにしないということだから。
そんな二人の絶妙な噛み合わなさには終始ヤキモキさせられました。
それに揺月はとっても強い女の子だなって思います。
傷を負って、ハンデも背負って、それすらも勲章とする。
髪も肌も瞳も全部カリムを助けた証。
そこまで言い切ってしまえるって揺月さんあなたカリムのことどんだけ好きなんですかと!
けれど、この二人の衝突が良かった。
言葉にしなきゃ伝わらないことがある。揺月の本心に触れることによって自分の過ちに気づいてからのカリムは純粋にかっこよかった。
空の上での自己との戦い。自問の連続。揺月とのやり取り。
しっかりとした土台があったからこそ、ラストのシーンは目頭が熱くなりほろりと押し寄せるものがありました。
またフライさんのイラストもとっても良い仕事してる。揺月のこれまでの境遇を思い出して、ようやく報われて、あんなイラスト見せられたらそら泣くわなと!
後になってしまいましたが、レイシャ先輩がすごく良い味を出してるなと思いました。
前半パートで物語の強弱を生み出していたのは、すぐムキになっちゃう先輩ありきだし、揺月のことを何も考えていなかったのだと気づかせてくれたのもレイシャ先輩でした。
やっぱりね、恋する女性はそれだけで魅力的なんだと僕は思うんです。
そういう意味でもレイシャ先輩の描かれ方は個人的に気に入っております。