かっぱの書棚

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まるで人だな、ルーシー/零真似

 

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

 

 評価:☆★★★★

 

 第21回スニーカー大賞<優秀賞>受賞作!

 

<感想>

自我と世界の境界線をテーマに狂気を描いた意欲作!

 

ただただ惹き込まれた。美しく書き込まれた描写と共にキャラクターを通して徐々に崩れていく世界との折り合いの付け方。冷静に狂っていく流れに恐怖すらを植え付ける一作!

 

人として欠かせない要素を代償に願いを叶えてくれる存在エキセントリックボックス。人身御供と認定された主人公・御剣乃音は自分の要素をエキセントリックボックスであるスクランブルに与え、代わりに己の願いを叶える日々を繰り返していた。人が変わった分だけエキセントリックボックスも変わる。徐々に欠けていく人としての当たり前の感覚。反対に人としての要素を取り込んだスクランブルにも変化が表れて──

 

さすがスニーカー文庫さん良い新人さんをデビューさせたなあと唸らされる一作。読み終わった後のこの独特の読後感はなんだろう。面白かった。読んでいてハラハラさせられた。でもこの腹の底にもやっと残った感覚は決して後味の悪さだけじゃないから自分の中に落とし込むのが難しい。

 

作中で徹底的に描かれるのは自我と世界の距離感について。人には適切な世界との付き合い方があって、人を構成する要素を欠かした乃音が徐々に世界の上でバランス感覚を失っていく展開には心が揺さぶられますね。

 

また、設定が良かった! 感情や能力を始めとした”何か”を失くす主人公というのは鉄板ネタではあると思うのですが、失くした乃音が壊れていくだけの物語にしなかったところが美しかった。本作ではスクランブルが人としての要素を奪って自分の中に取り込むという設定も同時に存在していて、そっち方面からもお話の本筋に切り込めていたのは違いを出せたという意味でも良かったなあ、と。主人公とエキセントリックボックスのキャラクターとしての立ち位置が逆転するというのも作品世界にマッチしたアイデアだと思いました。

 

キャラクターに関してはやっぱり主人公の御剣乃音が余りに痛ましくて印象に残りました。物語が進むごとに自分の願いのために心が壊れていく様が冷静に描かれる。乱心するわけでもなく、自分でも気づいてないように冷静に壊れていくんですよね。この不気味さにはぞくりとさせられました。

 

いやはや、今年も尖った新人さんが出てきて嬉しい限りです。