青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない/鴨志田一
評価:★★★★★
<ネタバレ感想>
涙なしには語れない!!
早いもので気づけば青ブタシリーズも7巻になりました。
僕は個人的に去年の一番のラノベは何だったかと聞かれたときに「おるすばん妹」なんだという話をリアルネットに関わらず言及してきたんです。
だからこそ「ゆめみる少女」を手に取ったとき再びガツンとボディブローを叩きこまれていつもの鴨志田一だなあ(白目)と涙ながらに何度も読み返しました。
はっきり言って引きが引きだけにハードルが高くなってたのも事実で、この最高潮に高まった熱をどう落とし込むのかすごく気になってたんです。
あまり期待しないでおこうと考えたくらいです。
けれど、読み終わった今となると分かります。
今までの青ブタはこの小説のために、翔子の笑顔を見るためだけに積み上げられてきたパズルのピースなんだと。
もうねっ、大満足! おじさんすごい興奮しちゃった!
序盤から涙こぼしながら読んでましたよ。
なんといっても構成が最高だ!
バニーガール、プチデビル、ロジカルウィッチ、シスコンアイドル。
翔子編に差し掛かるまでに咲太は色んな思春期症候群に立ち向かってきた。そのたびに大変な思いをしてきたし、色んな人との繋がりを手に入れて現在《イマ》を生きてきた。
ハツコイ少女はそのすべてが結実した作品になっています。
もうダメだと諦めかけた咲太が立ち上がって、最期の結末まで走り抜けることができたのはみんながいたからだ。
現実からじゃ考えもつかない非現実に追い込まれても、打つ手がなくて挫けそうになっても、みんながいたから咲太は立ち上がることができた。
でも、そんな“やさしい”みんなが支えてくれた理由は咲太がこれまで積み上げてきたものの証左に他ならない。口を開けば口八丁、皮肉のオンパレードであろうと咲太の諦めの悪さは天下一品だ。
そんなひねくれながらも“やさしい”咲太だからこそ辿り着ける最高のラストがあった。
──やさしさにたどり着くために、わたしは今日を生きています。
──昨日のわたしよりも今日のわたしがちょっとだけやさしい人間であればいいなと思いながら生きています。
翔子さんの言葉です。
咲太は翔子さんのようになんてなれないと言います。
やさしくなんてなれないと。自分のことばかりだと。
誰かを思って痛む心があるのならきっとそれはやさしさなんじゃないのかなと僕は思います。最期の挿絵がとても印象的で今も目蓋の裏に焼きついています。翔子のやさしさには及ばないかもしれない。それでもきっと、咲太は色んな人に支えられて昨日よりずっとやさしくなれてると感じます。
だって、ひとりの少女を笑顔にできたんですから。
最期に。
この物語は確かにご都合主義なのかもしれない。
現実は綺麗に舗装された道路ばかりじゃなくて、砂利道に足元を掬われて転んで擦りむいて、また転んでしまうような凸凹道かもしれない。
けれど、人生ってそういうもんなんだと思います。
そういうもんであってほしいと思います。
自分が思ってるよりも、明日の世界は今日よりちょっぴりやさしい世界で。
やさしい人たちに支えられて世界は成り立っている。それって素敵じゃないですか。
そんな風に明日からすこしだけやさしくなろうと思える青ブタはまぎれもなく「やさしい小説」なんだと。僕はそう捉えています。